ひびき)” の例文
姉さんは誕生のお祝いに紙に包んだ小さなものを雄二にれました。あけてみると、チリンチリンといいひびきのする、小さな鈴でした。
誕生日 (新字新仮名) / 原民喜(著)
また、水に落つる声を骨董という。それもコトンと落ちるひびきを骨董の字音を仮りて現わしたまでで、字面に何の義もあるのではない。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いつの間にか、トチトチトン、のんきらしいひびきに乗って、駅と書いた本所停車場ステイションの建札も、うまやと読んで、白日、菜の花をながむる心地。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そう言う要次郎の声も礫と罵詈と、馬蹄のひびきに葬られて行きます。今に遺る落首が一句、この時の凄惨さを物語ってう言いました。
礫心中 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
浅草観音堂の裏手の林の中は人通ひとどおりがすくなかったが、池の傍の群集の雑沓ざっとうは、活動写真の楽器の音をまじえて騒然たるひびきを伝えていた。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
心ここにあらざれば如何いかなる美味ものんどくだらず、今や捕吏ほりの来らんか、今や爆発のひびき聞えんと、三十分がほどを千日せんにちとも待ちびつ
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
そして一足でも歩もうとすればこれらの打壊された宝玉の破片は身も戦慄おののかるるばかり悲惨なひびきを発し更に無数の破片となって飛散る。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
半鐘の蒸汽じょうきポンプのサイレンのひびきが、活動街の上を越して伝わって来た。それに混って時々樹上の畸形児の狂喜のうなりが聞えた。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その時、絶壁の遥か上、高原に当たって騎馬武者の音、馬のいななき、物具もののぐひびき、それらにまじって若い女の悲鳴がかすかに聞こえて来た。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
で、それからは毎夕点燈頃ひともしごろになると、何処いずくよりとも知らず大浪の寄せるようなゴウゴウというひびきと共に、さしもに広き邸がグラグラと動く。
池袋の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
赤い火はとこんとこんと厚い鉄の戸口の隙間から見えて、ドドー、ドーンという車の廻るたびに地底を穿うがっている機械のひびきが聞き取られる。
暗い空 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「何で年よる」という言葉のひびきに、如何いかにも力なく投げ出してしまったような嘆息があり、老を悲しむ情が切々と迫っている。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
「気の毒気の毒」と思いにうとうととして眼を覚まして見れば、からす啼声なきごえ、雨戸を繰る音、裏の井戸で釣瓶つるべきしらせるひびき
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ガラガラとウィンチ(捲揚機まきあげき)の廻転する音、ガンガンと鉄骨を叩く轟音ごうおん、タタタタタとリベット(びょう)を打ち込むひびき、それに負けないように
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
老いたる浮浪者の声は、意外にも若々しいひびきを持っていた。そして道夫は、それをどこかで聞いたことのある声に思った。
四次元漂流 (新字新仮名) / 海野十三(著)
店の奥の方から来るのだが、それが何だかもっと大変遠いところから聞えて来るようなひびきをしているので、何だろうと思って店の中へ踏み込んだ。
木彫ウソを作った時 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
かれは、「ひびきりんりん」という故郷を去るの歌をつねに好んで吟誦ぎんしょうした。その調子には言うに言われぬ悲哀がこもった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
するとはるか向うの丘の上に在る王宮の中から、美しい音楽のひびきが、身を切るような霜風しもかぜに連れて吹き込んで来ました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
彼は極めて用心深く一鋤々々ひとすきひとすき、掘り下げて行ったが、深夜のことではあるし、鉄のさきに土の当る音は、とにかく重々しく、隠しおおせるひびきではない。
白光 (新字新仮名) / 魯迅(著)
「やっ!」「やっ‼」「来たっ※」悪漢共が蒼白まっさおになってわめくとともに、再び恐ろしいひびきがずずずずずんと響いた。
骸骨島の大冒険 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
すると看護人に伴なわれた辰夫は別な廊下へ——そこには鉄の扉が三ヶ所にもとざされているが、まるで私をも幽閉する音のように鋭い金属のひびきを放ち
(新字新仮名) / 坂口安吾(著)
断然きっぱりとお照のいい消したる時、遠く小銃のようなる音の何処いずくともなく聞えて、そがひびきにやかすかに大地の震うを覚えぬ。
片男波 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
百、二百、むらがる騎士は数をつくして北のかたなる試合へと急げば、石にりたるカメロットのやかたには、ただ王妃ギニヴィアの長くころもすそひびきのみ残る。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
意味を考えることは別問題としてありままだけをお伝えする。これが鐘のひびきと女の死というような『上野の鐘』の大略たいりゃくで、十二時を報じた時の鐘であったという。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
何やら探す様な気勢けはひがしてゐたが、がちやりと銅貨の相触れるひびき。——霎時しばしの間何の物音もしない、と老女としより枕頭まくらもとの障子が静かに開いて、やつれたお利代が顔を出した。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
また、澎湃ほうはいたる波濤はとうの如く常に身辺に押寄せつつある。私等はそのひびきとその波の中に生滅しつつある。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
色とひびきである。光のない上の世界と下の世界、その間を私たちの高麗丸のスクリュウが響く。機関がほてる。帆綱ほづなが唸る。通風筒の耳のあなが僅かに残照の紅みを反射する。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
静寂のなかにごく微かなひびきも伝わらないのに、何者かが室内へ侵入して来た。いかに耳を傾け尽すともその階段の上へ昇って行く足音すら聞く事は出来なかったのに……。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
ゆえに何か大きなひびきのよい言葉を用いれば、おのれを忘れて飛び上がる連中がはなはだ少なくない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
能高越えの深い断崖の下からは小やみもなしに、渓流のひびきとどろきわたってくるし、片側の高い崖土には、高い、細い蔓草つるくさっていて、白い、小さい花ばなをつけている。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
さればこそ、此処ここにこの憲法擁護の声の現るるや、人心のこれに赴く事ひびきの物に応ずるが如くである。今日は、実にこの勢力中心の変化を生ずる過渡期に臨みおるものである。
なに製造せいぞうするのか、間断かんだんなしきしむでゐる車輪しやりんひびきは、戸外こぐわいに立つひとみみろうせんばかりだ。工場こうば天井てんじよう八重やえわたした調革てうかくは、あみとおしてのたつ大蛇のはらのやうに見えた。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
鳥の声や風の音や波のひびきなどをまねた音楽、それから、ロシヤの川船の船頭の歌、スイスの山のなかの樵夫きこりの歌、アルプスのふもとの羊飼ひつじかひの歌、フランスの田舎の葡萄ぶだうつみの歌
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
書記の今西はそのひびきに応じて、心もちけた戸の後から、せた半身をさし延ばした。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いま戦線にある筈の、同じ連隊の三中隊に援兵すべく徹宵てっしょう行軍していたときであった。鉄道線路添いに高梁コウリャン畑を縫って前進していると遠くに銃声の絶え間ないひびきを聞いたのだった。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
バイもボウも棹も同じことで、フルチは振打ちの詰まったひびきであることは疑いがない。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
余は奥座敷で朝来ちょうらいの仕事をつゞける。寒いので、しば/\火鉢ひばちすみをつぐ。障子がやゝかげって、丁度ちょうど好い程のあかりになった。さあと云う音がする。ごうと云うひびきがする。風が出たらしい。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
瑣細ささいな凶事がおこる時などは、まるで何か爪の先でく様な微かな音がする、他人がもしはたればその人にも聞えるそうだ、私はこういう仕事をしているから、もしそういうひびきを聞けば
頭上の響 (新字新仮名) / 北村四海(著)
偉大な体格の、腹の突き出た諾威ノルヱエ人の船長は両手を組んだまゝ前方を見て動かない。麦藁帽をかぶつた優形やさがたの水先案内は軽快に船橋ブリツヂを左右へ断えず歩んで下瞰かかんながひびきのよい声で号令する。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
仕事をするには邪魔も払いたくなるはず。統一統一と目ざす鼻先に、謀叛の禁物は知れたことである。老人のむねには、花火線香も爆烈弾のひびきがするかも知れぬ。天下泰平は無論結構である。
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
それは一応絶望の人の言葉には聞えたが、そのひびきには人生の平凡を寂しがるうらみもなければ、絶望からね上って将来の未知を既知きちページって行こうとする好奇心こうきしんも情熱も持っていなかった。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
祇園精舎ぎおんしょうじゃの鐘の声、諸行無常のひびきあり。娑羅双樹しゃらそうじゅの花の色、盛者しょうじゃ必衰のことわりをあらわす。おごれる人も久しからず、唯、春の夜の夢のごとし。たけきものもついにはほろびぬ、ひとえに風の前のちりに同じ。
屋背は深き谿たにに臨めり。竹樹しげりて水見えねど、急湍のひびきは絶えず耳に入る。水桶みずおけにひしゃく添えて、縁側えんがわに置きたるも興あり。室の中央にあり、火をおこして煮焚にたきす。されど熱しとも覚えず。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
雑魚ざこぴきかからない、万一や網でも損じてはいぬかと、調べてみたがそうでも無い、只管ひたすら不思議に思って水面みなも見詰みつめていると、何やら大きな魚がドサリと網へ引掛ひっかかった、そのひびき却々なかなか尋常でなかった
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
かん/\とこほつてかねしづんだ村落むら空氣くうきひゞわたつた。希望きばう娯樂ごらくとにそゝのかされてつて老人等としよりら悉皆みんなひだりげて撞木しゆもくたゝいてかねひびきおくれるないそげ/\とみゝいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
居ながらにして幽邃閑寂ゆうすいかんじゃくなる山峡さんきょう風趣ふうしゅしのび、渓流けいりゅうひびき潺湲せんかんたるも尾の上のさくら靉靆あいたいたるもことごとく心眼心耳に浮び来り、花もかすみもその声のうちに備わりて身は紅塵万丈こうじんばんじょうの都門にあるを忘るべし
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ひびきなだも無事に過ぎた。海上生活二、三日ののちである。
源氏物語:22 玉鬘 (新字新仮名) / 紫式部(著)
対岸たいがん造船所ざうせんじよより聞こえくるてつひびきとほあらしのごとし
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
夜汽車は、単調なひびきに乗って、滑っている。
鉄路 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
ひびき宛然さながら金鈴のごとし
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)