かがみ)” の例文
すると奥さんはふところからかがみを出して、それを千枝ちやんに渡しながら「この子はかうやつて置きさへすれば、決して退屈しないんです」
東京小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
あちらで、それをおくさまは、おんなはだれでも、かがみがあれば、しぜんに自分じぶん姿すがたうつしてるのが、本能ほんのうということをらなそうに
だまされた娘とちょうの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
なお、当日、午餐ひるげには菰樽こもだるちょうかがみをひらき、日ごろ功労のあった重臣に鶴の血をしぼりこんだ『鶴酒つるざけ』を賜わるのが例になっていた。
顎十郎捕物帳:09 丹頂の鶴 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
といって、かがみのおもてをおかあさんのかおにさしけました。おかあさんはそのときかがみの上にうつった自分じぶんかおをしげしげとながめて
松山鏡 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
お日さまは何べんも雲にかくされてぎんかがみのように白く光ったり、またかがやいて大きな宝石ほうせきのようにあおぞらのふちにかかったりしました。
おきなぐさ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
月は野の向こうにのぼって、まるくかがやいていた。銀色ぎんいろもやが、地面じめんとすれすれに、またかがみのような水面すいめんただよっていた。かえるが語りあっていた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
そこには金ぶちのわくをはめたかがみがどこにもここにもはめてあって、ガラスの花燭台はなしょくだいと、銀のようにきらきら光るりっぱな帳場があった。
礼をして、介三郎は静かにかがみの控えにすがたを消す。……だいぶ時ってからである。装束方しょうぞくがたと後見の者が来て、末座から
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それもあり得ない事だ。庭の出入口の前には私が居たし、廊下の方には、あのお転婆てんばの姪の瑛子と、家政婦のかがみという女が話を
死の予告 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
女王さまは、かがみが、こういったのをきいたとき、あまりのはらだちに、からだじゅうをブルブルとふるわしてくやしがりました。
近くにのちしま、かなたにかがみさきも望まれて、いさましい漁師たちの船が青い潮に乗って行くのも、その島やみさきの間でしょう。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
少年は二、三行読むと、なにげなくかおをあげました。すると、ちょうどかがみに目がとまり、とたんに、大声でさけびました。
夫婦ふうふ毎夜まいよゆめなかつづけざまにるあの神々こうごうしいむすめ姿すがた……わたくしどものくもったこころかがみにも、だんだんとまことのかみみち朧気おぼろげながらうつってまいり
不忍池は今日市中に残された池のうちの最後のものである。江戸の名所に数えられたかがみいけうばいけは今更たずねよしもない。
ふと、かがみのおもてからはなしたおせんのくちびるは、ちいさくほころびた。と同時どうじに、すりるように、からだ戸棚とだなまえ近寄ちかよった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
しからば夢はまた吾人ごじんの平素らず識らずに思う心のかがみと称してもよかろう。かく考えると、睡眠すいみんを利用して修養の用に供することができそうである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「なあに、見ていただいたんじゃないですが、かがみいけで写生しているところを和尚さんに見つかったのです」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いっぽうの壁には、石炭をたくだんろがついていて、その上の壁に、大きなかがみがはめこみになっています。
黄金豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
八尺やさか曲玉まがたまという、それはそれはごりっぱなお首飾くびかざりの玉と、八咫やたかがみという神々こうごうしいお鏡と、かねて須佐之男命すさのおのみことが大じゃの尾の中からお拾いになった、鋭い御剣みつるぎ
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
さうです これはかがみです ピッカリングといふ天文学者もんがくしやかんがへ出した 火星くわせいへの信号しんがふ仕方しかたです
ぼくもかがみをみるまでは、わけがわからなかったんだ。が、おやじがげだしてから、鏡を
豊国とよくにかがみやま石戸いはとこもりにけらしてどまさぬ 〔巻三・四一八〕 手持女王
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
此の頭三三八何ばかりの物ぞ。此の戸口に充満みちみちて、雪を積みたるよりも白くきら々しく、まなこかがみの如く、つの枯木かれきごと、三たけ余りの口を開き、くれなゐの舌をいて、只一のみに飲むらんいきほひをなす。
だが、子供こどもたちのこえは、むらなかえていってしまいました。草鞋わらじ子供こどもかえってませんでした。むらうえにかかっていたつきが、かがみ職人しょくにんみがいたばかりのかがみのように、ひかりはじめました。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
十月十一日、未明に出発、湖畔こはんにそってすすむ。たちまち一個の砂丘に達した。丘上に立って左右をながめると、一方は湖がかがみのごとくひらき、他方には無数の砂丘が起伏連綿きふくれんめんとつづいている。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
さなきだにかれ憔悴しょうすいしたかお不幸ふこうなる内心ないしん煩悶はんもんと、長日月ちょうじつげつ恐怖きょうふとにて、苛責さいなまれいたこころを、かがみうつしたようにあらわしているのに。そのひろ骨張ほねばったかおうごきは、如何いかにもへん病的びょうてきであって。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
さて、ふたりは、かがみに出て行きました。そこで夕飯ゆうはん食卓しょくたくについて、王女づきの女官じょかんたちがお給仕きゅうじに立ちました。そのあいだ、バイオリンだの、木笛きぶえだのが、百年まえの古いきょくをかなでました。
眠る森のお姫さま (新字新仮名) / シャルル・ペロー(著)
青二は柱にかかっているかがみの前へいって顔をうつしてみた。
透明猫 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わせかがみ
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
かがみとり
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
春廼舎もまた矢継早やつぎばやに『小説神髄』(この頃『書生気質』と『小説神髄』とドッチが先きだろうという疑問が若い読書子間にあるらしいが、『神髄』はタシカ早稲田わせだの機関誌の『中央学術雑誌』に初め連載されたのが後に単行本となったので、『書生気質』以後であった。)から続いて『いもかがみ』を
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
ひろ野原のはらうえには、雲切くもぎれがして、あおかがみのようなそらえていました。えだは、それをると、無上むじょうになつかしかったのです。
風と木 からすときつね (新字新仮名) / 小川未明(著)
といって、ある日そっとむすめあとから一間ひとまはいってきました。そしてむすめ一心いっしんかがみの中に見入みいっているうしろから、けに
松山鏡 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ぼくはずいぶん青いかい。ぼくはもう外へ出ないから、みんながそう言うのを聞かないし、ここにはかがみもないのだからわからない
空にはうすい雲がすっかりかかり、太陽たいようは白いかがみのようになって、雲と反対はんたいせました。風が出て来てられない草は一面いちめんなみを立てます。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ところで、少年は、長持のふたがいているのを、いまかがみの中にはっきりと見ました。どうしたというのでしょう。さっぱりわけがわかりません。
松江しょうこうはそういいながら、きゃしゃな身体からだをひねって、おどりのようなかたちをしながら、ふたたかがみのおもてにびかけた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
それまで、楽屋のかがみ袖部屋そでべやか——うしろの用部屋において、ひかえておれ。どこへも、決して、起たぬように
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところが、この女王さまは、まえから一つのふしぎなかがみを持っておいでになりました。その鏡をごらんになるときは、いつでも、こうおっしゃるのでした。
側には川波勝弥をうらんで死んだ娘の、ふとこかがみが落ちて割れているなんざ、そっくり怪談ものじゃありませんか
元禄年代には鳥居清信とりいきよのぶが『四場居しばい百人一首』の如き享保きょうほう年代西川風にしかわふうの『絵本かがみ百首』の如きまた長谷川光信はせがわみつのぶ鯛屋貞柳たいやていりゅうの狂歌に絵を添へたる『御伽品鏡おとぎしなかがみ』の如きものあり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
船頭はこの妙な道具をかがみとなえて、二つ三つ余分に持ち合わせたのを、すぐ僕らに貸してくれた。第一にそれを利用したのは船頭のそばに座を取った吾一と百代子であった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それから一方では、安河やすのかわの河上からかたい岩をはこんで来て、それを鉄床てつどこにして、八咫やたかがみというりっぱな鏡を作らせ、八尺やさか曲玉まがたまというりっぱな玉で胸飾むなかざりを作らせました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
わたしはあの夫婦ふうふみちづれになると、むかうのやまには古塚ふるづかがある、その古塚ふるづかあばいてたら、かがみ太刀たち澤山たくさんた、わたしはだれらないやうに、やまかげやぶなかへ、さうものうづめてある
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
かれは、かばんのふたのうらについているポケットに手を入れて、小さなかがみと箱をとりだしました。その箱の中には、顔をかえる絵のぐや、つけひげや、いろいろなものがはいっているのです。
奇面城の秘密 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と、同時に、おくの部屋へやかがみが音をたててくだけ落ちた。
まるでかがみのやうだ
二人ふたりがいよいよもんを出ようというときに、ちょうどがたつき西にしほうそらに、ぎすましたかがみのようにきらきらひかっていました。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
しかし、そこをりがけに、自分じぶんかおは、そんなにみにくいのであるかと、ついかがみほう見向みむかずにいられませんでした。
だまされた娘とちょうの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
かがみのおもてにうつしたおのが姿すがた見詰みつめたまま、松江しょうこう隣座敷となりざしきにいるはずの、女房にょうぼうんでた。が、いずこへったのやら、ぐに返事へんじかれなかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)