野茨のばら)” の例文
四月頃しがつごろには、野茨のばらはなくものです。このにほひがまた非常ひじようによろしい。かぜなどにつれてにほつてると、なんだか新鮮しんせんのするものです。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
けてねむ合歡ねむはなの、面影おもかげけば、には石燈籠いしどうろうこけやゝあをうして、野茨のばらしろよひつき、カタ/\と音信おとづるゝ鼻唄はなうたかへるもをかし。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さうしてとげえた野茨のばらさへしろころもかざつてこゝろよいひた/\とあふてはたがひ首肯うなづきながらきないおもひ私語さゝやいてるのに
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「ええ。野茨のばらの実です。二粒の野茨の実です。真つ赤に、ふつくりと熟して、キスをせずにはゐられないやうなのです。その旨さうな事と云つたら。」
(新字旧仮名) / グスターフ・ウィード(著)
はたけに出てあか実付みつき野茨のばら一枝ひとえだって廊下の釣花瓶つりはないけけ、蕾付つぼみつき白菜はくさい一株ひとかぶって、旅順りょじゅんの記念にもらった砲弾ほうだん信管しんかんのカラを内筒ないとうにした竹の花立はなたてし、食堂の六畳にかざる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
野茨のばらをりて髪にもかざし手にもとり永き日野辺に君まちわびぬ
みだれ髪 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
そここゝに白い野茨のばらの花がちらほら見えた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
神殿は野茨のばらなり
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
焦燥あせつてほりえようとしては野茨のばらとげ肌膚はだきずつけたり、どろ衣物きものよごしたりにが失敗しつぱいあぢめねばならぬ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
私は何かの道中記の挿絵に、土手のすすき野茨のばらの実がこぼれた中に、折敷おしきに栗を塩尻に積んで三つばかり。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
てゐる旅行りよこう着物きものが、わゝけるほどにはやはるたびも、すでに春深はるふかくなつて、道傍みちばた雜草ざつそうのようにいてゐる野茨のばらはなが、にほつてかんぜられる、といふ意味いみです。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
こゝにこの水流るゝがために、水を好む野茨のばら心地ここちよく其のほとりに茂って、麦がれる頃は枝もたわかんばしい白い花をかぶる。薄紫の嫁菜よめなの花や、薄紅の犬蓼いぬたでや、いろ/\の秋の草花も美しい。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
影の、野茨のばらや。
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
それはられてぐつしやりとしめつていね土手どてしばうへぱいされてあつたからである。いねはぼつ/\とむらがつて野茨のばらかぶのぞいてこと/″\ひろげられてある。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
その長襦袢で……明保野で寝たのであるが、朱鷺色ときいろの薄いのに雪輪を白く抜いた友染である。みちに、ちらちらと、この友染が、小提灯で、川風が水に添い、野茨のばらの花。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
野茨のばらにほひがしてて、自分じぶんみちそばに、ほとゝぎすのこゑのするところの志賀しが山越やまごえよ、といふのです。かういふふうつくりかへが、また短歌たんかうへにたびたびおこなはれました。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
其内ある日近所の辰さん兼さんが簌々さくさく簌々と音さして悉皆堤の上のをって、たばにして、持って往ってしまう。あとは苅り残されの枯尾花かれおばな枯葭かれよしの二三本、野茨のばらの紅い実まじりにさびしく残って居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その舌のさきって、野茨のばらの花がこぼれたように、真白まっしろな蝶が飜然ひらりと飛んだ。が、角にも留まらず、直ぐに消えると、ぱっとの底へくぐったさまに、大牛がフイとせた。……
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
山道ががくれに続いて、木の根、岩角、雑草が人の脊より高く生乱はえみだれ、どくだみの香深く、あざみすさまじく咲き、野茨のばらの花の白いのも、時ならぬ黄昏たそがれ仄明ほのあかるさに、人の目を迷わして
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
姫の紫の褄下つましたに、山懐やまふところの夏草は、ふちのごとく暗く沈み、野茨のばら乱れて白きのみ。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
五月雨さみだれ茅屋かややしづくして、じと/\と沙汰さたするは、やまうへ古社ふるやしろすぎもり下闇したやみに、な/\黒髮くろかみかげあり。呪詛のろひをんなふ。かたのごと惡少年あくせうねん化鳥けてうねらいぬとなりて、野茨のばらみだれし岨道そばみちえうしてつ。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
人丈に近い茗荷みょうがの葉に、野茨のばらが白くちらちら交って、犬が前脚で届きそうな屋根の下には、羽目へ掛けて小枝も払わぬ青葉枯葉、松まきをひしと積んだは、今から冬の用意をした、雪の山家とうなずかれて
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)