股引ももひき)” の例文
平次の指図で八五郎が蓋を取ると、中には着物が二三枚、股引ももひき、腹掛、手拭の外に、白木の三尺が一本入っているではありませんか。
股引ももひきの破れをつゞり、笠の緒付けかへて、三里にきゆうすゆるより松島の月づ心にかゝりて、住める方は人に譲り杉風さんぷう別墅べつしよにうつる。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「はあ。」男は苦笑して、「こんな恰好かっこうで、ごめん下さい。」見ると、木戸にいる時と同様、こん股引ももひきにジャケツという風采ふうさいであった。
黄村先生言行録 (新字新仮名) / 太宰治(著)
むろんその時分には二人とも青春なんかドッカへ行っちゃって貧乏屑屋くずや股引ももひきみたいに、無意味に並んでいるだけの状態だったからね。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この鳥の足が片方は黒く、片方は白いのは、よごれた股引ももひきを半分脱ぎかけたまま、飛んで行ったからであるという(『南総の俚俗』)。
九月にはいって、夕刻になると風はもう肌に寒かったが、彼は木綿縞の色のせた半纒はんてん股引ももひき、古い草履ばきで、少し背中がかがんでいた。
榎物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
耕平はすっかり怒って、かるわざの股引ももひきのやうに、半分赤く染まった大根を引っぱり出して、いきなり板の間に投げつけます。
葡萄水 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
物干の間からのぞいて見ると紺の股引ももひき唐桟縞とうざんじま双子ふたこの尻を端折り、上に鉄無地てつむじ半合羽はんがっぱを着て帽子もかぶらぬ四十年輩の薄い痘痕あばたの男である。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
亀蔵はその時茶の弁慶縞べんけいじまの木綿綿入を着て、木綿帯を締め、あい股引ももひき穿いて、脚絆を当てていた。懐中には一両持っていた。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「さようならば、御免をこうむりまする。伊賀ごえでおいでなすったお客じゃないから、わし股引ももひきむそうても穿いて寝るには及ばんわ、のうお雪。」
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼は尻をからげて、莫大小めりやす股引ももひき白足袋しろたびに高足駄をはき、彼女は洋傘こうもりつえについて海松色みるいろ絹天きぬてん肩掛かたかけをかけ、主婦に向うて
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
煙草入たばこいれ股引ももひきへ差し込んで、上から筒服つつっぽうの胴をかぶせた。自分はカンテラをげて腰を上げた。安さんが先へ立つ。あなは存外登り安かった。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それは、あの日には三十俵五人扶持ぶちの門田与太郎であった。しかし今は、鶴のようなしまった身体からだに公然と着る絆天はんてん股引ももひきがよく似合っていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
折紙細工のつるや舟やかぶと股引ももひきや、切紙細工の花や魚やオモチヤや動物など、みんな子供会の手工の時間に作つたものです。
仔猫の裁判 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
そろひ浴衣ゆかたに白いちぢみ股引ももひき穿いて、何々浜と書いた大きい渋団扇しぶうちは身体からだをはたはたと叩いて居る姿が目に見える様である。
住吉祭 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
手首まで覆っている肌襯衣はだシャツのようなものだの、すねにぴっちりついている裾裏すそうらと共色の股引ももひき穿いているのを異様に思った。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
頃合ころあいをはかって、善ニョムさんは寝床の上へ、ソロソロ起きあがると、股引ももひき穿き、野良着のシャツを着て、それから手拭てぬぐいでしっかり頬冠ほおかむりした。
麦の芽 (新字新仮名) / 徳永直(著)
「芝居じゃありませんです。じゃそこで看守さんは見て居て下さい。いま此処で股引ももひきを脱いで、御覧に入れますから」
柿色の紙風船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
股引ももひきの上へじかに胴をくっつけるのもあり、ドテラの上へ直ちに道具をつけるのもあって、それらが申合いをすると、見ている者がドッと笑います。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
仕切帳でも包んであるのか、小風呂敷を腰から前へ結んで、矢立に、道中差、千種ちぐさ股引ももひきを見せて、尻端折しりはしょりをしている、若い商人あきんどていの旅人だった。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先生は白いシャツ一枚になり、女の子は着物をからげて跣足はだしになり、男の子は股引ももひき一つになって、草を採ったり、うなったり、肥料をやったりした。
段々、暗にれて来るに従って、ウッスリ相手の姿が見える。男の服装は半天はんてん股引ももひき、顔は黒布で包んでいる。子供は可愛らしい洋服姿が、たしかに茂だ。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
僕はズボン下に足袋たび裸足はだし麦藁帽むぎわらぼうという出で立ち、民子は手指てさしいて股引ももひきも佩いてゆけと母が云うと、手指ばかり佩いて股引佩くのにぐずぐずしている。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
こん股引ももひきわらくゝつてみなたがやはじめる。みづしいとひとおもときかへるは一せいけるかとおもほどのどふくろ膨脹ばうちやうさせてゆるがしながら殊更ことさらてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
シャツも股引ももひきもフラネルでこしらえ、足袋の裏にもフラネルを着けさせて全身をまとうて居た所が、とんと効能が見えぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
多くは紺絣こんがすり細袖ほそそでの着物を着、これに股引ももひきをはき前掛をかける。時としてこれらのものに刺子さしこを施すのをよろこぶ。
陸中雑記 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
股引ももひきのバンドに手をかけた時、突然池の中でがぼうという大きな音がし、ごうという音といっしょに吸いつけられる勢で水が布を裂くように鳴る音が聞え
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
彼はあわてて、今かじりかけていたベビーゴルフのボールほど大きい梅漬を、めんつの中へ投げ込んで、股引ももひきでちょっとこすった手を彼の女の前へ差し出した。
案内人風景 (新字新仮名) / 百瀬慎太郎黒部溯郎(著)
上の方へはきすぎた股引ももひきの中にほとんどからだが隠れ、そして、うしろから、ひものはしがだらりと垂れている。
髯を剃り、髪を結い変え、紺の腹がけに同じ股引ももひき、その上へ革の羽織を着たが、まさに一カドの棟梁であった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
好いことはいつもひとられ年中嬉しからぬ生活くらしかたに日を送り月を迎うる味気なさ、膝頭ひざがしらの抜けたを辛くも埋めつづった股引ももひきばかりわが夫にはかせおくこと
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
下着が筒袖つつそで股引ももひきの類であるところを見るとインドのものでないことは確かである。またギリシアやローマの鎧も、似寄ったところはあるが、よほど違っている。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
爺さんは破けた股引ももひきをはいてよちよち使いあるきに出ながら、肴屋さかなやの店へ寄って愚痴をこぼしはじめた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
股引ももひきすそから二、三寸はみ出させて、牛肉のすき焼きをたべるのだから残念ながらいきとかつうとかという方面からいえば、三もんの価値もないのであるが、といって
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
薄暗いすみの方で、袢天はんてんを着、股引ももひきをはいた、風呂敷を三角にかぶった女出面でめんらしい母親が、林檎りんごの皮をむいて、棚に腹んいになっている子供に食わしてやっていた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
そこに村人は集まって、乾した股引ももひき脚半の小紋或いは染色そめいろを見て、皆々珍しがっているのであった。
壁の眼の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
紺無地の腰きりのつつっぽを着てフランネルの股引ももひきをはいて草鞋ばきで、縁側に腰をかけて居る。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
すると権助ごんすけ不服ふふくそうに、千草ちくさ股引ももひきの膝をすすめながら、こんな理窟りくつを云い出しました。
仙人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
としいちへ、り出した松を運ぶ荷車が威勢よく駈けて通る。歳暮の品を鬱金木綿うこんもめん風呂敷ふろしきに包んで首から胸へさげた丁稚でっちが浅黄の股引ももひきをだぶつかせて若旦那のおともをしてゆく。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
まるで年の暮れに猶太ユダヤ人の莫大小メリヤス屋が、一ドル股引ももひきを九十九セントに「思い切り値下げ」して、「犠牲的大廉売」、「自殺か奉仕かこの英断!」なんかと楽隊入りで広告するような
亡くなった王様のおとむらいをすますとすぐ、王様の服をぬいで妃に箪笥たんすへしまわせました。そしてまた元の粗末な麻のシャツや股引ももひき、百姓靴をつけて、百姓仕事にかえりました。
イワンの馬鹿 (新字新仮名) / レオ・トルストイ(著)
ははさんと言ふは目の悪るい人だから心配をさせないやうに早く締つてくれればいが、わたしはこれでもあの人の半纒はんてんをば洗濯して、股引ももひきのほころびでも縫つて見たいと思つてゐるに
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
着物は何処どこかの小使のお古らしい小倉こくらの上衣に、渋色染の股引ももひきは囚徒のかと思われる。一体に無口らしいが通りがかりの漁師などが声をかけて行くと、オーと重い濁った返事をする。
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ことに啓吉は、その女が死後の嗜みとして、男用の股引ももひき穿いているのを見た時に悲劇の第五幕目を見たような、深い感銘かんめいを受けずにはいなかった。それは明かに覚悟かくごの自殺であった。
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
赤い色の着物をた女や、紺地の股引ももひき穿いた男や、白い手拭てぬぐいを被った者が一つのまたたきする蝋燭ろうそく火影ほかげを取り巻いて、その下で博打ばくちをした。また不義の快楽けらくふけったりしたのである。
凍える女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
他は盲縞めくらじま股引ももひき腹掛はらがけに、唐桟とうざん半纏はんてん着て、茶ヅックの深靴ふかぐつ穿うがち、衿巻の頬冠ほほかぶり鳥撃帽子とりうちぼうしを頂きて、六角に削成けずりなしたる檳榔子びんろうじの逞きステッキを引抱ひんだき、いづれも身材みのたけ貫一よりは低けれど
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
夜が更けえて、足袋やさんが打つきぬたが——股引ももひきや、腹掛けや、足袋地の木綿を打つ音が、タン、タン、タン、タン、カッツン、カッツンと遠くまで響き、鼈甲べっこう屋さんも祝月いわいづきが近づくので
土偶中には裸体らたいの物有り、着服ちやくふくの物有り、素面すめんの物有り、覆面ふくめんの物有り、かむり物の在る有り、き有り、穿き物の在る有り、き有り、上衣うわぎ股引ももひきとには赤色あかいろ彩色さいしきを施したるも有るなり
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
先ず着物の定役ていえきしるさんに赤き筒袖の着物は単衣ひとえものならば三枚、あわせならば二枚、綿入れならば一枚半、また股引ももひき四足しそく縫い上ぐるを定めとし、古き直し物も修繕の大小によりてあらかじめ定数あり
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
三、恨みは深しメリヤスの股引ももひき、不具戴天の仇。お話申すも涙の種でがす。