浅草あさくさ)” の例文
旧字:淺草
けさ上野うえの駅について、浅草あさくさ有楽町ゆうらくちょうで、映画を二つ見た。映画館の群衆は、自分とはまったくちがった別世界の生きものであった。
女妖:01 前篇 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
舟は大概右岸の浅草に沿うてそのを操っているであろう。これは浅草あさくさの岸一帯が浅瀬になっていて上汐の流が幾分かゆるやかであるからだ。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それでは塩原しほばらてら何処どこでせうと聞いたところが、浅草あさくさ森下もりしたの——たしか東陽寺とうやうじといふ禅宗寺ぜんしうでらだといふことでございますといふ。
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
その後再び東京へ転住したと聞いて、一度人伝ひとづてに聞いた浅草あさくさ七曲ななまがり住居すまい最寄もよりへ行ったついでに尋ねたが、ドウしても解らなかった。
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
彼の愛する風景は大きい丹塗にぬりの観音堂かんのんどうの前に無数のはとの飛ぶ浅草あさくさである。あるいはまた高い時計台の下に鉄道馬車の通る銀座である。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
浅草あさくさ公園での早取り写真で、それには実蔵の一人子息ひとりむすこと和助とだけ、いたいけな二少年の姿が箱入りのガラス板の中に映っている。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それから日比谷ひびやで写真をって、主人、伯父、郷里の兄、北海道の母にとどく可く郵税ゆうぜい一切いっさいはらって置いた。日比谷から角谷は浅草あさくさに往った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
雷門かみなりもんを中心とし、下谷したや浅草あさくさ本所ほんじょ深川ふかがわの方面では、同志が三万人から出来た。貴方たちも、加盟していただきたい。どうです!
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
今日こんにち不図ふと鉄道馬車てつだうばしやの窓より浅草あさくさなる松田まつだの絵看板かんばん瞥見致候べつけんいたしそろ。ドーダ五十せんでこんなに腹が張つた云々うん/\野性やせい遺憾ゐかんなく暴露ばうろせられたる事にそろ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
レコードは浅草あさくさの盛り場の光景を描いた「音画」らしい、コルネット、クラリネットのジンタ音楽に交じって花屋敷はなやしきを案内する声が陽気にきこえていた。
時事雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
其の日、二月某日の夜は寒い刺す様な風が吹いて居りました。金を懐に七時頃家を飛び出し、其の頃毎夜の如く放浪する浅草あさくさの活動街に姿を現わしました。
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
伊藤喜兵衛いとうきへえは孫娘のおうめれて、浅草あさくさ観音の額堂がくどうそばを歩いていた。其の一行にはお梅の乳母のおまき医師坊主いしゃぼうず尾扇びせんが加わっていた。喜兵衛はお梅を見た。
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彫金ほりきんというのがある、魚政うおまさというのがある、屋根安やねやす大工鉄だいてつ左官金さかんきん。東京の浅草あさくさに、深川ふかがわに。周防国すおうのくに美濃みの近江おうみ加賀かが能登のと越前えちぜん肥後ひごの熊本、阿波あわの徳島。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
家業を変えて肴屋さかなやを始め、神田かんだ大門だいもん通りのあたりを得意に如才なく働いたこともありますが、江戸の大火にって着のみ着のままになり、流れて浅草あさくさ花川戸はなかわどへ行き
私などは、ことほか恥かしがり屋の故を以てか、浅草あさくさ千束町せんぞくちょうへは毎晩通っていたが、文展へ絵を出す如き行為は決してなすまじきものであると考えていた事は確かである。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
重兵衛にむすめが二人あって、長女に壻を迎えたが、壻は放蕩ほうとうをして離別せられた。しかし後に浅草あさくさ諏訪町すわちょうの西側の角に移ってから、またその壻を呼び返していたそうである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
わたしが下総しもうさの店から東京へ帰って、浅草あさくさ三谷堀さんやぼり、待乳山のすそに住っていたころで、……それにしても八人のうちでわたし一人が何んの仕事も持たない風来坊ふうらいぼうだったから
そのラッカアりの船腹が、仄暗ほのぐらい電燈に、丸味をおび、つやつやしく光っているのも、みょうに心ぼそい感じで、ベランダに出ました。遥か、浅草あさくさ装飾燈そうしょくとうが赤くかがやいています。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
浅草あさくさの或る寺の住持じゅうじまだ坊主にならぬ壮年の頃あやまつ事あって生家を追われ、下総しもうさ東金とうかねに親類が有るので、当分厄介になる心算つもり出立しゅったつした途中、船橋ふなばしと云う所である妓楼ぎろうあが
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
浅草あさくさ駒形こまがた兄哥あにい、つづみの与吉とともに、彼の仲間の大姐御おおあねご、尺取り横町の櫛巻くしまきふじの意気な住居に、こけ猿、くだらないがらくたのように、ごろんところがっているんです。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
蓑市で最も有名なのは江戸の浅草あさくさであった。『東名物鹿子あずまめいぶつかのこ』に「弥生やよいの中の八日、近郷より蓑を持ち寄りて浅草寺せんそうじの門前にあきなふ。是を浅草のみのいちといふ。蓑市や桜曇さくらぐもりの染手本そめでほん
蓑のこと (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
たとえば浅草あさくさの公園でパノラマ館にはいったよう、空気はたちまち一変して、外の騒々しさはすべていたように消されてしまって、寺院の内は靴音さえ慎まれるほどの静けさである。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
五円?——五円は随分好いですね。浅草あさくさ黒船町くろふねちょうに古くからわたしの知ってる袋物屋があるが、彼所あすこならもっとずっと安くこしらえてくれますよ。こんだる時にゃ、私が頼んで上げましょう
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おがみたさの心願しんがんほかならならなかったのであるが、きょうもきょうとて浅草あさくさの、このはるんだ志道軒しどうけん小屋前こやまえで、出会頭であいがしらに、ばったりったのが彫工ほりこうまつろう、それとさっしたまつろうから
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
本所や浅草あさくさでは、十二時におのおの十二、三か所からもえ上ったくらいです。
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
浅草あさくさ鳥越とりこえの中村座に旗上げをした
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
とおい、浅草あさくさほうなんだ。」
すいれんは咲いたが (新字新仮名) / 小川未明(著)
浅草あさくさのにぎはひに
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
みえはみえたが浅草あさくさ
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
重吉の方は浅草あさくさ芝崎町しばざきちょう天岳院てんがくいん日輪寺にちりんじという大きな寺のあるあたり、おも素人屋しもたやのつづいた横町に洗濯屋の二階を捜した。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
下谷したやから浅草あさくさへ出たらう、それから本郷台ほんがうだいあがつて、牛込うしごめへ出て四谷よつやから麹町かうぢまちへ出てかへつてた、いやもうがつかりした。
年始まはり (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「機首を左へ曲げ、隅田川すみだがわ沿って、本所ほんじょ浅草あさくさの上空へやれ。高度は、もっと下げられぬか」そう云ったのは、警備司令部付の、塩原参謀しおばらさんぼうだった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それに春の夜の浅草あさくさ公園が異様に彼をひきつけた。彼は歩くともなく、帰りみちとは反対に公園の中へと入って行った。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そこでは彼の懇意にした隠居もくなったあとで、年のちがったかみさんは旅人宿をたたみ、浅草あさくさの方に甲子飯きのえねめしの小料理屋を出しているとのことである。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
昭和六年の元旦のちょうど昼ごろに、麻布あざぶの親類から浅草あさくさの親類へ回る道順で銀座を通って見たときの事である。
銀座アルプス (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
僕は浅草あさくさ千束町せんぞくまちにまだ私娼の多かつた頃のよるの景色を覚えてゐる。それは窓ごとにかげのさした十二階の聳えてゐる為にほとんど荘厳な気のするものだつた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
浅草あさくさ竜泉寺りゅうせんじの横町からかけつけた、トンガリ長屋の住民ども、破れ半纏はんてんのお爺さんやら、まっ裸の上に火消しの刺子さしこをはおった、いなせな若い者や、ねんねこ半纏で赤ん坊をしょったおかみさん
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ぶらりぶらりとたとこを、浅草あさくさでばったり出遭であったのが若旦那わかだんな
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
浅草あさくさ公園の矢場やば銘酒屋めいしゅやのたぐひ近頃に至りて大方取払はれしよし聞きつたへてたれなりしか好事こうずの人の仔細らしく言ひけるは
葡萄棚 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
けれど所書きは皆違っていて、二つは浅草あさくさ旅人宿りょじんやど、一つのは浅草郵便局留置とめおきで返事をれとあって所書きがない。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
今に浅草あさくさ軒寺町けんてらまち東陽寺とうようじという寺の墓場に鹽原多助の石碑がありますが、其の石碑に実父鹽原角右衞門かくえもん、養父も鹽原角右衞門と法名が二つございますが
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
一番目覚ましい飛躍ひやくを伝えられたのは、矢張やはり、光の世界とばれている東京は下町の、浅草あさくさ区だったという。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
僕も今度は御多分ごたぶんれず、焼死した死骸しがい沢山たくさん見た。その沢山の死骸のうち最も記憶に残つてゐるのは、浅草あさくさ仲店なかみせの収容所にあつた病人らしい死骸である。
たとえば京橋区きょうばしく日本橋区にほんばしくのごとき区域と浅草あさくさ本所ほんじょのごとき区域とで顕著な区別のあることが発見されている。
函館の大火について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
浅草あさくさ竜泉寺りゅうせんじ、お江戸名所はトンガリ長屋。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
用もないのに小路こうじ々々の果までを飽きずに見歩いた後、やがて浅草あさくさ随身門ずいじんもんそとの裏長屋に呑気のんき独世帯ひとりじょたいを張っている笠亭仙果りゅうていせんかうちへとやって来た。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
××観音は、東京でいえばまあ浅草あさくさといった所で、境内けいだいに色々な見世物小屋がある。劇場もある。それが田舎けに、一層はいたい的で、グロテスクなのだ。
百面相役者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いつかおおぜいで先生を引っぱって浅草あさくさへ行ってルナパークのメリーゴーラウンドに乗せたこともあったが
夏目漱石先生の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
例へば浅草あさくさゑがくにしても、ロテイの「日本の秋」の中の浅草のやうに、のあたりに、黄ばんだ銀杏いてふだの、赤い伽藍がらんだのが浮んで来ないことは事実である。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
南無大慈大悲なむだいじだいひ観世音菩薩くわんぜおんぼさつ……いやアおほきなもんですな、人が盲目めくらだと思つてだますんです、浅草あさくさ観音くわんおんさまは一すんだつて、虚言うそばツかり、おほきなもんですな。
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)