鼹鼠もぐら)” の例文
その主人公の俺というのが、鼹鼠もぐらいたちか、とにかくそういう類のものには違いないが、それが結局最後まで明らかにされてはいない。
狼疾記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
又は、ああ、自分は、いつ鼹鼠もぐらになったのであろうか。真闇まっくらな、生暖かい地の底を、どこまでもどこまでも掘って行かなければならないのだ……。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
いまの鼹鼠もぐら田鼠たねずみの形を、およそ三百倍したほどな、黒い影が二つ三つ五つ六つ、瓜畑の中へ、むくむくといて、波を立てて、うねって起きた。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
讀者よ、霧峻嶺たかねにて汝を襲ひ、汝物を見るあたかも鼹鼠もぐらが膜を透してみるごとくなりしことあらば、おもへ 一—三
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
そういう中でも鼹鼠もぐら駆除のなまこ引き以上に、もっと子どもが大悦おおよろこびで引きうけた役目は鳥追とりおいで、その日の面白さは、白髪しらがになるまで忘れずにいる者が多いのである。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
食虫(鼹鼠もぐら等)、手翅(蝙蝠こうもり)、皮翅(インド諸島の飛狐猴コルゴ属)、貧歯(鯪鯉りょうり等)、齧歯げっし(兎鼠)、チロドンチア(現存せず)、啖肉たんにく(猫犬等)、鯨鯢げいげい、シレニア(琉球のザンノイオ等)、有蹄ゆうてい
この頃の霜壊で庭の土が極めて脆くなり、地面が鼹鼠もぐらの塚のように盛れ上って、堅い地面との間は空隙が出来ているから、わりに軽い物体でもその上に置かれれば跡を残さないということはない。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
溜息ためいきいてる、草のしげみを、ばさり、がさがさと、つい、そこに黒くいて、月夜に何だか薄く動く。あ、とお優さんは、なまめかしい色を乱してすそを縮めました。おや、鼹鼠もぐらか、田鼠たねずみか。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
棒で肥桶こえおけの腹をこすってキーキーという音を立て、耕地の上を転がしてまわると鼹鼠もぐらげるといって、関東・信越の田舎いなかでは、今でも農家の主人が出て行って、このまじないをするふうもあるが
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)