魍魎もうりょう)” の例文
黒地の単衣の襟を抜いて、睫毛まつげまばらな目をつぶって、水気の来たような指を組んで、魍魎もうりょうのごとくのっさりと、畳一ぱいに坐っていました。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と云うとふとそこへ、語るものが口から吐いた、鉄拐てっかいのごとき魍魎もうりょうが土塀に映った、……それは老人の影であった。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかもそれが父の死を知ったばかりの悲しみの中にあるべき身でありながら——園はさながら魍魎もうりょうの巣の中を喘ぎ喘ぎ歩いていくもののように歩いた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
美妻の最後の無惨さに、夫悔い悲しむ事限りなく、精神魍魎もうりょうとして家を迷い出で行方知れずなってしまった。
昔から山には魑魅ちみ、水には魍魎もうりょうがおると云われているが、明治二十年ごろの事であった。
死んでいた狒狒 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
第二種(鬼神編)鬼神、魑魅ちみ魍魎もうりょう、妖神、悪魔、七福神、貧乏神
妖怪学講義:02 緒言 (新字新仮名) / 井上円了(著)
その笠は鴨居かもいの上になって、空から畳を瞰下みおろすような、おもうに漏る雨の余りわびしさに、笠欲ししと念じた、壁の心があらわれたものであろう——抜群にこの魍魎もうりょう偉大おおきいから
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ト見ると襖から承塵なげしへかけた、あまじみの魍魎もうりょうと、肩を並べて、そのかしら鴨居かもいを越した偉大の人物。眉太く、眼円まなこつぶらに、鼻隆うして口のけたなるが、頬肉ほおじしゆたかに、あっぱれの人品なり。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
椿 そのほか、夥多あまた道陸神どうろくじんたち、こだますだま、魑魅ちみ魍魎もうりょう
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)