鬚髯しゅぜん)” の例文
闇の中に、顎の下からの逆光線で、クローズ・アップされた老人の顔、モジャモジャした頭髪、顔を埋めた半白の鬚髯しゅぜん、まん丸なロイド眼鏡。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
余はことに彼ヤイコクが五束いつつかもある鬚髯しゅぜん蓬々ぼうぼうとしてむねれ、素盞雄尊すさのおのみことを見る様な六尺ゆたかな堂々どうどう雄偉ゆうい骨格こっかく悲壮ひそう沈欝ちんうつな其眼光まなざし熟視じゅくしした時
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
鈴木の女主人おんなあるじは次第に優にしたしんで、立派な、気さくな檀那だんなだといって褒めた。当時の優は黒い鬚髯しゅぜんを蓄えていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それによると、遺体はなほ湿気があつて異香馥郁とし、片腕は羅馬へ送られて無く残つた片腕を胸に当て、面部は細長く色は黒ずみ、頭髪と鬚髯しゅぜん斑白はんぱくであつた。
あごの鬚髯しゅぜんは、随分白くなったが、なかなか元気だ。明治四十三年の晩秋、私が宇都宮へ遊びに行ったときには、まだ高田は県会議員をやっていて、鬚髯は黒かった。
議会見物 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
彼は多年獄中にあっての蓬々ぼうぼうたる頭髪と茫々ぼうぼうたる鬚髯しゅぜんの間から、大きくはないが爛々らんらんと光る眼に物珍らしい色をたたえて、しきりにこの室内を見廻しているのであります。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ブリュウテンツワイク氏は短かい鳶色の鬚髯しゅぜんと、同じ色の鋭く光る眼とを持った男で、もみ手をしながら、イギリス人のまわりをぐるぐる廻っては、思いつく限りの語彙で
神の剣 (新字新仮名) / パウル・トーマス・マン(著)
そこに無作法に立ちはだかっていたのは、薄汚ない半白の頭髪と鬚髯しゅぜんに顔を埋め、ロイド眼鏡を光らせた、みすぼらしい背広姿の老人であった。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
織田信長にしては面長おもながな、太閤秀吉としては大柄な、浅井長政にしては鬚髯しゅぜんがいかめし過ぎる。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)