駈落者かけおちもの)” の例文
目下、松島湾の月ノ浦に碇泊しているところの駒井甚三郎創案建造の蒸気船、無名丸から脱走して来たところの駈落者かけおちものなのであります。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
駈落者かけおちものは、御法度の筈でございます。捕まえて、日本橋のたもとに、さらし者としてくださるのが、御法だと覚えておりますが。
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うしろ暗いことがあるか無いか、それは調べてみなければ判りませんが、いずれにしても駈落者かけおちものは一応の詮議を致さなければなりませんので……。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「ありがとう。もう大丈夫ですわ……まあおかしいわね。あたしたち、まるで駈落者かけおちものみたいじゃありませんか」
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
○「やい、神妙しんびょうにしろ、身ぐるみ脱いて置いてけ、手前達てめえたちは大方宇都宮の女郎を連出した駈落者かけおちものだろう」
平次とお六が泊つたのは、とら屋三四郎、晩酌ばんしやくを一本つけて、さて、話が枝がさし葉がしげります。番頭は夫婦と見たか、駈落者かけおちものと見たか、ひどく心得て同じ部屋に泊めるつもりなのを
われら駈落者かけおちものを捕へ候とて、さほど貴殿の御手柄になり候わけにてもあるまじく候間、何とぞ日頃のよしみにこのまゝお見逃し下されよと、たもとすがり、地にひたいり付けて頼み候様子なれど
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
庚申こうしん像を縛って駈落者かけおちものの足留めしたと心得ると五十歩百歩だ。
駈落者かけおちものになるよりほかに仕方がないじゃないか
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あれは景気は好さそうだがその実懐中ふところに金はあるまいとか、こちらの方にくすぶっている商人ていの一人者は、あれでなかなか持っていそうだとか、あの夫婦者は実は駈落者かけおちものだろうとか
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
何者かと思って振返ると、心中でも仕損じた駈落者かけおちものとおぼしく、橋際はしぎわ晒者さらしものになっている二人の男女があって、その両手は堅くいましめられている処から一心に種彦の袂をば歯でくわえていたのであった。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
捉まえに行ったのは本当です、あの二人は駈落者かけおちものなんだから、それを
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)