飄々乎ひょうひょうこ)” の例文
颯々として背を吹きなでるその初秋のわびしい街風をあびながら、風来坊の退屈男は飄々乎ひょうひょうことしてどこというあてもなくさ迷いました。
それはとにかく、活東は飄々乎ひょうひょうことした人物であった。母親とつつましい暮しをしていて、自分は雇員か何ぞになって区役所に勤めていた。
跛者ちんばで醜貌の猪十郎、薬草車を引き出した。美童の紅丸後押しをする。車に添って薬草道人、飄々乎ひょうひょうことして歩いて行く。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
左程さほどにもない距離に思われても、歩いてみると案外、紆余うよ曲折のあるのが山道の常で、日本左衛門の飄々乎ひょうひょうこたる姿を、沢辺さわべの向うに見ていながら
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
というのは、運平老と徹太郎との、例の飄々乎ひょうひょうことした話っぷりや、高笑いが、彼の気持、というよりは、彼の存在そのものにまるで無頓着らしく思えたからである。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
神経衰弱を生命いのちの綱にしている現代の青年が、百年考えても実践出来ない人生の千山万岳をサッサと踏破り、飄々乎ひょうひょうことして徹底して行くのだから手が附けられない。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私はこの飄々乎ひょうひょうこたる樹庵の姿を見、持前の感傷癖から、彼のイデヤするものは畢竟ひっきょう、淡々たる光風霽月こうふうせいげつの境地なのであろう、と何かこう羨しげな気持で、物凄い音響の律動を夢見心地に
放浪作家の冒険 (新字新仮名) / 西尾正(著)
これも飄々乎ひょうひょうことして旅に上った。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その関所の西口から急落している石段を、今、ひとりの儒者じゅしゃふうの男、肩からひも合財袋がっさいぶくろ小瓢こふくべをさげ、その小瓢のごとく飄々乎ひょうひょうことして降りてくる。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
薬草道人はどうしたか? 将軍吉宗の大患を癒し、薬剤車を猪十郎に曳かせ、美童の紅丸を供に連れ、眼の明いた白烏を前駆にし、飄々乎ひょうひょうことして早春の候、再び御岳へ帰ってしまった。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
まことに飄々乎ひょうひょうことして、所もあろうにこんな山路の奥の身延街道に姿を現すとは、いっそもう小気味のいい位ですが、しかし、当の本人はそれ程でもないと見えて、相変らず言う事が退屈そうでした。
平原の禰衡、あざな正平しょうへい。迎えをうけて、ふだん着のあか臭い衣服のまま、飄々乎ひょうひょうことしてやってきたが曹操以下の並居る閣のまん中に立つと、無遠慮に見廻して
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
飄々乎ひょうひょうことして歩いて行く。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
夏は唐人扇子とうじんせんすをパチつかせ、冬はぼろ隠しの十徳を着て、飄々乎ひょうひょうことしている源内が、仕立ておろしの初袷はつあわせをつけて、いつになくこざっぱりしていたのは、季題はずれのように衆目をひいた。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
孤剣葛巾こけんかつきんの浪士は、飄々乎ひょうひょうことして辻を曲がってこなたへ歩いてくる。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)