顔貌かおかたち)” の例文
旧字:顏貌
大臣これをあわれみ望みの通り実行させて刀の洗汁を后に飲ましむ。さて生まれた男児名は長摩納、この子顔貌かおかたち殊特で豪貴の人相を具う。
顔貌かおかたち……赤痣……揉み上げ……、せい、肉付き……年齢、どこからどこまで寸分の相違もなかったが、ただ眼だけがまったく異っていた。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
私も先刻さっきから見た様な人だと思ってたが、顔貌かおかたちが違ったから黙ってたが、どうも実に私は親子と名乗ってお前に逢われた義理じゃアありませんが
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
これとは反対に、顔貌かおかたちにはきずがあっても、才人だと、交際しているうちに、その醜さが忘れられる。また年を取るにしたがって、才気が眉目をさえ美しくする。
安井夫人 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
亡父や兄に似寄りの点を自分の顔貌かおかたちの中に見出して、どうかすると悲観することはあってもね……。
不肖の兄 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
やがて舟の仕度が出来たと見えて、駕籠かごの中の侍が外へ出た。侍はすぐに編笠をかぶったが、ちらりと見た顔貌かおかたちは瀬沼兵衛にまぎれなかった。左近は一瞬間ためらった。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あの女の顔貌かおかたちが忘られてしまうものなら、男子たるおれが、こんなに甲斐かいない恋に苦しんで居ることは無いのだが、どうしてもあの顔を忘れることが出来ぬ、というのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
風呂桶が新たに湯殿へ持ち込まれたり、顔貌かおかたちの綺麗な若い女中がやとい入れられたりした。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
顔貌かおかたち歩きぶりは申すに及ばず、顔をしかめる当人の癖から声まで、いやもう似てるとも似てるとも、ほんものと寸分たがわずじゃ。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
私の顔貌かおかたちんなに成ったものだから捨てゝ逃げるのだと思うから油断を致しませんで、此寺こゝに四五日居りまするうちに、因果のむくいは恐ろしいもので
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その中に、老人も紙銭の中から出て来て、李と一しょに、入口の石段の上に腰を下したから、今では顔貌かおかたちも、はっきり見える。形容の枯槁ここうしている事は、さっき見た時の比ではない。
仙人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
せめて吉川の写真でも見て、その顔貌かおかたちをはっきり頭に入れたなら、いくらか気持も安まりそうに思えた。その上、それは吉川に対する保子の本当の心を知る便りにもなりそうだった。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
度々たび/\無心に来るごとに良人に金を送るとは貞実な者だという噂を聞いたが、石川の娘で許嫁といえばわしよりほかに無い筈だが、幼年の折に別れて顔貌かおかたちを知らぬに付け込んで何者かに欺むかれ