鞠問きくもん)” の例文
老宰相は使つかいをやって夫人の父と兄を呼んでその面前めんぜんで夫人を鞠問きくもんした。夫人は罪悪を包みかくさず自白した。
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
たま/\燕王の護衛百戸の鄧庸とうようというもの、けついたり事を奏したりけるを、斉泰いてとらえて鞠問きくもんしけるに、王がまさに兵を挙げんとするの状をば逐一にもうしたり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しかれども十月十六日に至り、鞠問きくもん全くおわり、奉行は彼を流罪に当るものとなし、案を具えてこれを老中に致す。大老井伊直弼、「流」字をこうして「死」字とす。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
ある日、逮捕の役人が一人の賊をいて来て、これがすなわち我来也であると申し立てた。すぐに獄屋へ送って鞠問きくもんしたが、彼は我来也でないと言い張るのである。
京兆けいちょういん温璋おんしょうは衙卒の訴にもとづいて魚玄機を逮捕させた。玄機はごう弁疏べんそすることなくして罪に服した。楽人陳某は鞠問きくもんを受けたが、情を知らざるものとしてゆるされた。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それは彼が三十二歳で藩主世子うえもんのすけ忠春のそばがしらに任じられたとき、その出頭をねたむ者から讒訴ざんそされて、老臣列座の鞠問きくもんをうけた、私行のうえの根も葉もない事だったので
日本婦道記:墨丸 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
一、この回の口書くちがき甚だ草々なり。七月九日一通申立てたる後、九月五日、十月五日両度の呼出しも、差したる鞠問きくもんもなくして、十月十六日に至り、口書読み聞かせありて、直ちに書判かきはんせよとの事なり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)