面紗ヴェール)” の例文
顔の前に短く垂れた面紗ヴェールのように、空虚・無目的性をこの人生の前面に装飾的にかけて、その気分を持って廻るのであったら
私たちの社会生物学 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
土耳古トルコ婦人はいつの場合でも面紗ヴェールで顔を隠すそうです。顔やうなじが焼けなくて手首だけ焼けるのはそのためでしょう」
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして私の接吻を受けるべく、手袋をはずして片手をさし伸べながら、喪服の面紗ヴェールを挙げて昂然と言うのであった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
ある種の祭典には白い面紗ヴェールをつけ、特殊な祈祷きとうをつぶやき、「聖なる血」を尊び、「きよき心」を敬い、普通一般の信者どもには許されない礼拝堂の中で
西洋でも、男という男がかつらをかぶった時代がある。女という女が厚い面紗ヴェールをかけた時代がある。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
顏は奈何どうでも構はぬが、十八歳で姿の好い女、曙色か淺緑の簡單な洋服を着て、面紗ヴェールをかけて、音のしない樣に綿を厚く入れた足袋を穿いて、始終無言でなければならぬ。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
その後に、二臺のほろをはねた馬車が續いてゐた。ひら/\と飜る面紗ヴェールや搖れ動く帽子の羽毛うまうなどがその乘物に一杯だつた。騎手きしゆの中二人は若い元氣のよさゝうな紳士だつた。
彼女が身に著け得る最も廉価な衣装である面紗ヴェールをかぶるのが差迫っているのをことわるにまだ時がある間に、そこから連れ戻して、家柄は賤しいがすこぶる富裕な一人の収税請負人に
侏儒しゅじゅや獣身のものを交ゆ。彼等の武器に使うものは現代の婦人の使う面紗ヴェールに似て居り、または天平の婦人のヒレに似て居る一種の長絹である。各七色に染め分けられたるその一片を持つ。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
暗示こそは人に与えられた子等の中、最もすぐれた娘の一人だ。然し彼女が慎み深く、穏かで、かつ容易にその面紗ヴェールを顔からかきのけない為めに、人は屡〻この気高く美しい娘の存在を忘れようとする。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「美人美人と云うけれど、君の言葉を聞いていれば、美人は面紗ヴェールに隠れていて、顔を見せないって云うじゃないか」
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
すなわち楽堂の柱に寄って、黒い面紗ヴェールで顔を隠した水色の服の欧州美人が、スラリとたたずんでいるのであった。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
涙の面紗ヴェールを通して見えているものは、畳の上の主税の顔であった。男らしい端麗な顔であった。わけても誘惑的に見えているものは、潤いを持ったふくよかな口であった。
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)