さえぎ)” の例文
霧が物をさえぎる事は東西を通じて詩にも歌にもいろいろに云い現されているが、ある学者は霧が視界を障ぎる距離を詳しく調べてみた。
歳時記新註 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
と云いながらそばへ寄って、源三の衣領えりくつろげて奇麗きれいな指で触ってみると、源三はくすぐったいと云ったように頸をすくめてさえぎりながら
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
傘をひらいて落ちたように、木の枝が、木の枝にさえぎられつつ墜ちて行ったので、城太郎はどこも大地に打ちはしなかったが
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
甲子太郎は平次の言葉をさえぎって、もっての外の首を振るのです。有峰杉之助が評判の良い浪人とは聴きましたが、甲子太郎までこう言おうとは思いも寄らなかったのです。
世間財理の融通をさえぎり、不得策のはなはだしきで、地方に必要の活金いきがねを地下に埋め投ずに同じ。
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
この輪がこれまで発見せられなかったのは、従来の観測は皆低地でするのみであったため、下層の濁った空気にさえぎられて見えなかったのだろうという事である。
話の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
二た月ほど前から虱潰しらみつぶしに泉屋一家を荒して歩く曲者、——どんなに要心を重ねても、風の如く潜り込んで、かなりまとまった金をさらった上、さえぎる者があると、恐ろしい早業で
入口から射し入る青白い月、何やら鳥のようなものが、その先をサッとさえぎります。
今まで黙って聞いて居た浩一郎は、この時二人の言をさえぎって
古銭の謎 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)