闇雲やみくも)” の例文
くだんの男は、げッ、と息をひいて、つんのめるように闇雲やみくもに駈け出した。と見るうちに、もやい合った夏草に足を取られて俯伏せにどッと倒れた。
ところへ闇雲やみくもに後から驀進して来た一つの高級自動車があった。あの露西亜ロシア風の駅逓の前に見たのがそれであった。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
闇雲やみくもに先きを急ぐやうな若い時の焦躁せうそうが、古いバネのやうにゆるんで、感じが稀薄になるからでもあるが、一つは生命の連続である子供達の生長をよろこぶ心と、哀れむ心が
風呂桶 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
忠次の身体からだが、赤城山中の地蔵山で、危険にひんしたとき、みんなは命を捨てて働いてくれた。平生は老ぼれて、物の役には立つまいと思われていた闇雲やみくも忍松おしまつまでが、見事な働きをした。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ただ闇雲やみくもに、外面如菩薩げめんにょぼさつの、噉肉外道たんにくげどうの、自力絶対のと、社会よのなかが変っても、人心や生活くらし様式ありさま推移うつっても、後生大事に旧学にかじりついているのは、俗にいう、馬鹿の一つ覚えと申すもので……。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父は闇雲やみくもに、巡査に、ビンタをぶたれていた。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
うばたまの闇雲やみくもいそぐかごの中に
「……いま、一ツ橋御門へ入ろうとすると、いきなり門内からむさんに飛びだして来たやつがあって、闇雲やみくもに駕籠の曳扉ひきどのあたりにえらい勢いで体あたりをくれた……」
顎十郎捕物帳:08 氷献上 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
闇雲やみくもの忍松が、其処まで云いかけると、乾児達は、周囲から口々にののしった。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)