とき)” の例文
松火の見えている沙丘の前面てまえから、鋭い胡笛かくの音が響いて来た。歩哨の兵が吹いたのでもあろう。と、そこからときの声が起こった。
沙漠の美姫 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
良兼は護の縁につながつて居る者の中の長者であつた。良兼の妻も内から牝鶏めんどりのすゝめを試みた。雄鶏はつひときの声をつくつた。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
ピサロと部下とは広場へ飛び出してときの声をあげた。三方の建物から騎兵と歩兵の集団が群集の中に突入してそれに応じた。鷹砲と小銃の音が轟き渡った。
鎖国:日本の悲劇 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
ドイツ軍大勝利のときの声と共に、上陸作戦の夜は、明け放れたのであった。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
なにをいうにも多勢たぜい無勢ぶぜいですから、こうなったら逃げるよりほかはない。異人たちは真っ蒼になって坂下の方へ逃げました。別手組も一緒に逃げました。弥次馬はときの声をあげて追って来る。
半七捕物帳:58 菊人形の昔 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
雄鷄おんどりはもうたかこゑときをつくるやうな勇氣ゆうきくじけまして
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ときこゑあげてかこみさふらふとも
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
楽隊は進行曲マーチを奏し出す。見物の群集はときを上げる。響きと色彩いろと人の顔とが入り乱れている雑沓ざっとうの間をそろそろと自動車は動き出した。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その時の嬉しさというものは思わずときの声をあげたくらいだ。こんな事情で今日まで護謨園の主人に保護されて生活していたというものさ。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その時土人の部落を越えた遙か向こうの森の中からときの声がドッと上がったかと思うと、それに答えて部落からも太鼓を打つ音が鳴り響き
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
月が雲を割って現われた。はるかのむこうで銀箔のように、平らに何か光っている。山椒魚さんしょううおんでいる湖なのさ。……お聞きよお聞きよときの声が聞こえる。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ドッとその時戸外にあたり、ときを上げる声が聞えて来た。つづいて乱入する物の音!
首頂戴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この間も表門の方角からは、門を叩く音、ときの声、罵声ばせいや怒声が聞こえて来た。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、ワッとときを上げ、バラバラと逃げる賊の後を、ただ冷然と見るばかり、無謀に追っかけて行こうとはしない。帆柱を背に不動の姿勢、そうして獲物は頭上高く、やや斜めにかざされていた。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)