銀鼠色ぎんねずいろ)” の例文
が、駕籠の側に付いていた若い男が、何やら駕籠屋に耳打ちをすると、そのまま駕籠をあげて銀鼠色ぎんねずいろ夕靄ゆうもやに包まれた暮の街を、ヒタヒタと急ぎます。
鼯鼠は餌物をむさぼり食った。ピンと上げた太い尻尾が、銀鼠色ぎんねずいろに輝いた。骨を噛み砕く音がした。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「はい、かしこまりました」と、コン吉が、扉を開けて廊下へ出ようとすると、その一尺ほどの扉の隙間から、こがらしのようにひょろりと吹き込んで来た一着の銀鼠色ぎんねずいろのモオニング。
向側の建物は、一杯に月の光をあびて、銀鼠色ぎんねずいろに輝いていました。前にお話しした通り、それがこちらの建物と、そっくりそのままの構造なのです。何という変な気持でしょう。
目羅博士の不思議な犯罪 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
怒気をみなぎらして構え直った天堂一角、きっと月光のそそぐところを見れば、青き天蓋てんがい銀鼠色ぎんねずいろの虚無僧衣、うるしの下駄を踏み開いて、右手めてに取ったるは尺八に一節ひとふし短い一節切ひとよぎりの竹……。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十畳の廊下外のひさしの下の、井戸のところにある豊後梅ぶんごうめも、黄色くすすけて散り、離れの袖垣そでがき臘梅ろうばいの黄色い絹糸をくくったような花も、いつとはなし腐ってしまい、しいの木に銀鼠色ぎんねずいろ嫩葉わかば
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
手入をせられた事の無い、銀鼠色ぎんねずいろの小さい木の幹が、勝手に曲りくねって、髪の乱れた頭のような枝葉を戴いて、一塊になっている。そして小さい葉に風を受けて、互にささやき合っている。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
あつらえたような銀鼠色ぎんねずいろ朧月夜おぼろづきよ、春のもやに蒸された梅が匂って、飲み過ぎた頭の芯が痛むような中を、なんの心もなくそぞろ歩いていると、道は不意に尽きて
膝行寄いざりよって、いきなり障子を開けてみると、サッと路地を吹き抜く風が、まともに平次の額を叩きますが、入口の格子は銀鼠色ぎんねずいろに月光に開け放たれたまま、そこには心中の仕損ねどころか