野鄙やひ)” の例文
しかし私は父や母の手前、あんな野鄙やひな人を集めて騒ぐのは止せともいいかねた。それで私はただあまり仰山だからとばかり主張した。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
神学者の教うる神の観念は、野鄙やひ低劣ていれつを極め、そしてその主張は、魂の発達に対して、最も有害なる影響を与える。われ等は断じてこれに与しない。
野鄙やひと風雅との境界線については、将来も久しく大議論が続くであろう。しかしそんな差別はわれわれの高祖も想像せす、末孫も感じあたわざる差別である。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
かくて妾は宛然さながら甘酒に酔いたる如くに興奮し、結ばれがちの精神も引き立ちて、互いに尊敬の念も起り、時には氤氳いんうんたる口気こうきに接しておのずから野鄙やひの情も
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
また宗教の如きも、わずかにその弊害の一部分、即ち野鄙やひな迷信的の弊害が残っておるばかりである。されば儒教も宗教も、今日日本に於てそれを一変したのである。
女子教育の目的 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
以前その地の住民しからず粗暴野鄙やひだったに付けて、似合わぬ事の喩えの諺とカムデンは言った。
我文学に恋愛なるものゝ甚だ野鄙やひにして熱着ならざりしも、た他界に対する観念の欠乏せるに因するところ多し、「もろ/\の星くづを君の姿にして」などやうなることば
他界に対する観念 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
この批評家の人格の野鄙やひらさ、こせこせした誹謗ひぼうと毒舌、思いあがった冷酷な機智、一口にいえばその発散する「検事みたいな悪臭」に、チェーホフは嘔吐おうとをもよおしたのである。
唯都々一は三味線にばち打付ぶちつけてコリャサイなど囃立はやしたつるが故に野鄙やひに聞ゆれども、三十一文字も三味線に合してコリャサイの調子に唄えば矢張り野鄙なる可し。古歌必ずしも崇拝するに足らず。
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
純文学となって、自己身辺の事実のみまめまめしく書きつけ、これこそ物語にうつつをぬかすがごとき野鄙やひな文学ではないと高くとまり、最も肝要な可能の世界の創造ということを忘れてしまって
純粋小説論 (新字新仮名) / 横光利一(著)
娘を賭けて競争をさせるような野鄙やひな事もさせられない。
霊感! (新字新仮名) / 夢野久作(著)
洒落しゃれとか、野鄙やひな文句とか、頓珍漢とんちんかんな理窟とか、嘘や出鱈目でたらめとかは、私の知れる限りにおいて、全然痕跡もなく、何れも皆真面目な教訓、又は忠言のみであった。
かく行いかく言った東洋人には、遥かに西洋人に優れた香の知識があったので、自分らには解らぬ事を下等とか野鄙やひとか卑蔑するのが今日西洋の文化或る点において退却を始めおるしるしじゃ。