たまた)” の例文
然るに他の職業にては、辛ふじてみづから給するに足るものあるのみ、而してたまたま病魔に犯さるゝ事あらば、誰ありて之を看護するものもなし。
主のつとめ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
しかしこうして松下の士、なおみなかくの如くんば、何を以て天下に唱えん。耕作の至れるは、たまたま群童のさきがけを為す。群童に魁たるは、すなわち天下に魁たるの始めなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
彼等の惨死さんしはづかしむるなかれ、たまたま奇禍を免れ得ざりしのみ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
この引力は人をしてたまたま偉大なる人物とならしめ、適ま醜悪なる行為をなさしめ、或は善、或は悪、或は聖愛、或は痴情、等の名をたる百般の光景を現出して
熱意 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
舞台の精巧プレサイスネツスたまたま以て劇中の人物の生活の実態を描き出るには好けれど、其の幻惑力はおのづから観者の心魂を奪ひて摸型的美術の中に入らしめ、且は又た演者自らをして
劇詩の前途如何 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
たまたま「女学雑誌」の拡張に際して、主筆氏の許すところとなりて、旧作を訂し紙上に載せんとす。
我牢獄 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
不善の行為はたまたま不善の実象を現ずるにすぎずして、心の上にあらはれたる一黒点に外ならず。不善の行為を廃めて善の行為をなすも亦た、心の上にうつりたる一白点に外ならず。
各人心宮内の秘宮 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
国としての誇負プライド、いづくにかある。人種としての尊大、いづくにかある。民としての栄誉、何くにかある。たまたま大声疾呼して、国を誇り民をたのむものあれど、彼等は耳を閉ぢて之を聞かざるなり。
漫罵 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)