あま)” の例文
大井おほゐ中津川なかつがはの諸驛を過ぎて、次第に木曾の翠微すゐびちかづけるは、九月もはや盡きんとして、秋風しうふう客衣かくいあまねく、虫聲路傍に喞々しよく/\たるの頃なりき。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
屋敷中探がす。居ない。したが痛くなる程呼んでも、答が無い。民やをやって、近所をあまねく探がさしたが、何処にも居ず、誰も知らぬ、と云う。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
呑んだくれの禿頭とくとう詩人を贔屓ひいきにして可愛がる一方に、当時、十九か十八位の青年進士呉青秀に命じて、あまねく天下の名勝をスケッチして廻らせた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それは一見きわめて平明簡素であるが、あまねき光と、したたる滋味とは、聴く者を最も高い陶酔境に導かずにはおかない。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
おもえらく、然らずんば以て外夷を拒絶し国威を震耀しんようするに足らずと。その後、あまねく洋書を講究し、専ら礮学ほうがくを修め、事に遇えばすなわち論説する所あり、あるいはこれを声詩に発す。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)