這裏しゃり)” の例文
また自ら進んで適意の刺戟を求めあとうだけの活力を這裏しゃりに消耗して快を取る手段との二つに帰着してしまうよう私は考えているのであります。
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
禅僧がよく「這裏しゃり」とか「箇裏こり」とか「箇中」とかいうが、面白い表現で「現下のこのもの」という意である。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
いたずらにこの境遇を拈出ねんしゅつするのは、あえ市井しせい銅臭児どうしゅうじ鬼嚇きかくして、好んで高く標置ひょうちするがためではない。ただ這裏しゃり福音ふくいんを述べて、縁ある衆生しゅじょうさしまねくのみである。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼が武右衛門君に対して「そうさな」を繰り返しているのでも這裏しゃりの消息はよく分る。諸君は冷淡だからと云って、けっして主人のような善人を嫌ってはいけない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼がなんぞと云うと、むかっ腹をたててぷんぷんするのでも這裏しゃりの消息は会得えとくできる。先日鼻と喧嘩をしたのは鼻が気に食わぬからで鼻の娘には何の罪もない話しである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
黒い顔! 中には日本に籍があるのかと怪まれるくらい黒いのがいる。——刈り込まざる髯! 棕櫚箒しゅろぼうききぬたで打ったような髯——この気魄きはく這裏しゃり磅礴ほうはくとしてわだかまり沆瀁こうようとしてみなぎっている。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
風流を這裏しゃりに楽しんで悔いざるものである。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)