逆毛さかげ)” の例文
ふなべりから水玉のかかるたびに、たか逆毛さかげを立てて、凄愴な姿態を作った。今朝は、飼い馴れたこの鷹にも、戦気があった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
嘗ての日、彼等こそ何事を経て来たであらうか強烈の飲料をその傷口に燃やし、行方なく逆毛さかげの野牛を放つては、薪のやうに苛薄の妄想をたち割つた彼等。
逸見猶吉詩集 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
わたくしは、尚もこの弟をいゝ鴨にして、合槌あいづちを打ってみたりかまをかけてみたり、少しは逆毛さかげに撫でゝみたりして、先生の家のことを喋らせるように仕向けます。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
この癖は非常に執拗で、だから「トントン」のいつも立っている窓の下の畳の一部は、トントンとやる度毎の足裏の摩擦でガサガサに逆毛さかげ立ち、薬研やげんのように穿ほじくれていた。
三狂人 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
人間の頭へは決して鱗の逆に向た毛のはえる者では有りません、の様な事があってもはえた儘の毛に逆髪さかげは有ません、然るに此三本の内に一本逆毛さかげが有るとは何故でしょう即ち此一本は入毛いれげです
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
こういうトピックスで逆毛さかげ立った高速度ジャズトーキーの世の中に、彼は一八五〇年代の学者の行なった古色蒼然そうぜんたる実験を、あらゆる新しきものより新しいつもりで繰り返しているのであろう。
野球時代 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
お篠はカツとなつて、きほひ立つた雌猫めねこのやうに逆毛さかげを立てました。
死骸がまだよろめいているうちに、彼の剣は、もう次の何ものかを待っている。彼の髪は、わし逆毛さかげのように立って、満山皆敵とるもののようであった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)