起請きしょう)” の例文
つとに入れたは何だか知らねえ、血で書いた起請きしょうだって、さらけ出さずに済むものか、と立身上たつみあがりで、じりじり寄って行きますとね。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一方には女郎の千枚起請きしょうや旅役者の夫婦約束が、何の苦もなく相手を自殺させるなぞいう奇蹟が続々と起って来ることになるのであります。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「証拠なんて! わたくしの言葉を信じて下さらなければ、それまでよ。お女郎じゃあるまいし、まさか、起請きしょうを書くわけにも行かないじゃないの。」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「左手の小指が半分から先ないだろう。——柳橋から出ている頃、起請きしょう代りに切ったのさ。一生懸命隠してはいるが」
夕雛は起請きしょうを取りかわしている日本橋辺のあきんどの若い息子と、睦まじそうに手をひかれて歩いていた。綾衣も笑いながらその肩を叩いて行き違った。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
夫婦約束を反古ほごにして、起請きしょうというのはおらア知んねえが、熊野の権現さまへちけえを立てると烏ウ三びき死ぬとかいう話を聞いてるが、それだから死んだ若草を生きて居る心で
四郎がたとえこの町へ帰って来てもどうなるものではない。馬鹿を悧巧にしてやることが出来るというでもないがしかしかく、早く帰って来て欲しいと神仏へ起請きしょうもした。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
と言っても恋の起請きしょう誓紙といったような色っぽいものではなくて、今後一切彼女のことに関する限り、作品には書かないという誓いで、もし少しでもそれを書いた場合には
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
いま潔斎して、起請きしょうの一文は約束のごとくしたためておいたが、予の筆元を御僧が見とどけ、また、毛利の筆元を見届けるために、こちらからも一名の陣僧をさしつかわすであろう。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そなたはこの万字楼を動かないように起請きしょうをしてもらいたいのだ
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
少しは小癪こしゃくさわったが、起請きしょうを取交したわけでも、夫婦約束をしたわけでもないから、文句の言いようはない。正直にお祝いを申上げて帰って貰ったのさ。
大「なに嬉しくはあるまい……なに……真に手前嬉しいと思うなら、己に起請きしょうを書いてくれ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼女は全く栄之丞を見捨てた証拠だといって、掛守かけまもりの中から男の起請きしょうを出して見せた。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
八橋には若い浪人者の馴染みがあって、起請きしょうまでも取り交した深い仲である。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
玉屋小三郎かかえの遊女薄墨の後身であり、その間夫まぶだった大井久我之助の手許には、薄墨の書いた起請きしょうが十三通、外にとろけそうな文句を綴った日文ひぶみが三百幾十本となり、このまま諦めるにしては