諸方ほうぼう)” の例文
越後えちご路から長野の方へ出まして、諸方ほうぼうを廻って参りました。これから寒くなりますで、暖い方へ参りますでござりますわい」
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
諸方ほうぼうから人が出て来たが盗棒はいなかった。するとお其はあたしに指さして
旧聞日本橋:02 町の構成 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
賊はおめえさんたちだ、わっちは西浦賀の女郎屋の半治という者で、孩児がきの時分から身性が悪くって、たび/\諸方ほうぼうくすぶって居て、野天博奕のでんばくち引攫ひっさらい又ちょっくらもち見た様な事も度々たび/\遣って
諸方ほうぼうから餞別せんべつとして贈られた物も、異郷への土産みやげとして、出来るだけ岸本は鞄や行李こうりの中にれて行こうとした。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
体操の教師は耕作のことにくわしい人だから、諸方ほうぼうに光って見える畠を私に指して見せて、あそこに大きな紫紅色の葉を垂れたのが「わたり粟」というやつだとか
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
どうかすると彼はい過ぎるほど逢わねば成らないような客をその二階に避け、諸方ほうぼうから貰った手紙を一まとめにして持って来て、半日独りで読み暮すこともあった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
市川という男は、あれは点火つけびをして歩く奴だ。どうもあの男は諸方ほうぼうへ火を点けて歩いて困る
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
正太が放擲うっちゃらかして置いて行った諸方ほうぼうの遊び場所からは、あそこの茶屋の女中、ここの待合の内儀おかみ、と言って、しばしば豊世を苦めに来た。彼女はそういう借金の言訳ばかりにも、疲れた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
諸方ほうぼう店頭みせさきにはたっ素見ひやかしている人々もある。こういう向の雑書を猟ることは、もっとも、相川の目的ではなかったが、ある店の前に立って見渡しているうちに、不図眼に付いたものがあった。
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この牧場では月々五十銭ずつで諸方ほうぼうの持主から牝牛を預っている。そういう牝牛が今五十頭ばかり居る。種牛は一頭置いてある。牧夫が勤めの主なるものは、牛の繁殖を監督することであった。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
旅舎を出てから、「よく森彦さんは、ああして長くひとりで居られるナア」と思ってみた。電車で新宿まで乗って、それから樹木の間を歩いて行くと、諸方ほうぼうの屋根から夕餐ゆうげの煙の登るのが見えた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「あんなに諸方ほうぼうへ連れてって頂いたんですもの……」と彼女が言った。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こうした人の噂は節子の小さな胸を刺激せずには置かなかった。諸方ほうぼうから叔父の許へ来る手紙、にわかにえた客の数だけでも、急激に変って行こうとする彼女の運命を感知させるには充分であった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼はそれに乗って諸方ほうぼうかけずり廻るにはえられなく成って来た。
刺繍 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)