語草かたりぐさ)” の例文
芝浦しばうらの月見も高輪たかなわ二十六夜待にじふろくやまちも既になき世の語草かたりぐさである。南品なんぴんの風流を伝へた楼台ろうだいも今はたゞ不潔なる娼家しやうかに過ぎぬ。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「左馬介どのか。今ほどはまことにお見事であった。よい語草かたりぐさをおのこしなされたぞ。はや最期のお支度と察しるが、此方に物申したいとはいかなる儀か」
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
恨むもの、恨まれるもの、共に亡び去ったのだから、事件がこれ以上続きよう筈はなかった。さしもの大事件も、山本始の自殺を境として、もう過去の語草かたりぐさとなってしまったのだ。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
美の探求者たんきゅうしゃであるわたしは、古今の美女のおもばせを慕ってもろもろの書史ふみから、語草かたりぐさから、途上の邂逅かいこうからまで、かずかずの女人をさがしいだし、そのひとたちの生涯の片影へんえいしるしとどめ
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
風流と豪奢をいまも語草かたりぐさにしている。
西林図 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
芝浦しばうらの月見も高輪たかなわ二十六夜待にじゅうろくやまちも既になき世の語草かたりぐさである。南品なんぴんの風流を伝えた楼台ろうだいも今はただ不潔なる娼家しょうかに過ぎぬ。
「そうさな。人の難儀を見て置くも気の毒ながらまた何ぞ後の世の語草かたりぐさになろうも知れぬ。どれぶらぶら参ろうか。」
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
したため家元から破門された三味線の名人常磐津金蔵ときわずきんぞうが同じく小石川の人であった事を尽きない語草かたりぐさにしたような時代のあった事を知るものがあろう。
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
季節のかわり行くごとに、その季節に必要な品物を売りに来た行商人の声が、東京というこの都会の生活に固有の情趣を帯びさせたのも、今は老朽ちた人々の語草かたりぐさに残されているばかりである。
虫の声 (新字新仮名) / 永井荷風(著)