裕福ゆうふく)” の例文
暮しは至って裕福ゆうふくらしく、男気おとこけはなく、玉枝さんという若い小間使と二人きりで、お弟子衆の来るたびに、よく笛の音が洩れて参りました
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そんなわけで、もういよいよどこにも天皇におさからいする者がなくなって、天下は平らかに治まり、人民もどんどん裕福ゆうふくになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
そんな事を言ひ乍ら、家の中を念入りに見ましたが、ひどく裕福ゆうふくらしいといふ外には、何の變つたところもなかつたのです。
旧幕時代には裕福ゆうふくだった上に、明治になってからも貨殖かしょくみちが巧みだったと見えて、今では華族中でも屈指の富豪だった。
禅僧の内輪うちわの生活が次第に栄養不良になる一方の乏しいものでも、貧農ひんのうの目から見れば坊主は裕福ゆうふくという昔からの考えがいくらか残ってはいる。
禅僧 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
先代からの扶持ふちやその他で裕福ゆうふくに暮らし、院号やなにかで通るよりも本名のお絹が当人の柄に合います。
道也先生の裕福ゆうふくならぬ事はその服装を見たものの心から取りけられぬ事実である。道也先生は羽織のゆきを左右の手に引っ張りながら、まずおもむろにわが右のそでを見た。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今日でこそ有閑ゆうかん婦人の贅沢はさまで珍しくないようなものの昔は男子でもそうは行かぬ裕福ゆうふくな家でも堅儀かたぎな旧家ほど衣食住のおごりをつつし僭上せんしょうそしりを受けないようにし成り上り者にするのを
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
全くザセーキナ公爵夫人は、裕福ゆうふくな婦人でありようはずがなかった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
それでおきないへ次第しだい裕福ゆうふくになりました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)