袢纒はんてん)” の例文
藤次郎はお店の袢纒はんてんを着て、新しい麻裏をき、紺の匂ひをプンプンさせて居りました。おくやみかた/″\手傳ひに來たのでせう。
と、いう声に二人が驚いて振り向くと、いつのまにおりて来たのか、文次の袢纒はんてんに、愛刀帰雁を引っつかんだ篁守人の立ち姿!
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
棒縞お召のあわせ黒繻子くろじゅすの帯、えりのついた袢纒はんてんをひっかけた伝法な姿、水浅黄みずあさぎ蹴出けだしの覗くのも構わずみだらがましく立膝たてひざをしている女の側に、辰次郎が寒そうな顔で笑っていた。
お美津簪 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
わざ/\お神さんにとのことに小女も不審を立て、寝るまでの時間つなぎに、亭主が不断着の裾直しに懸って居た秋元の女房は、黒の太利ふとりとかいう袢纒はんてんの、袖口の毛繻子けじゅす褐色ちゃの霞が来て居るのを
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
「それは仕事着だよ、錢形の、職人の袢纒はんてんと同じことだ。夜盜や押込みが、金襴緞子きんらんどんすも着飾つては行けまいぢやないか」
お粂はすぐ、そのむねを、繼母に傳へました。それを聽くと、お春は長襦袢ながじゆばんの上に、袢纒はんてんを引つかけて飛んで來たのです。
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
二度目に袢纒はんてんと着換へたのも變だが、その仕事着と、翌る朝お光の死骸を抱き上げて血の着いた袢纒とを、一緒にたらひに入れて置いたのも變ぢやないか。
身扮みなりは恐ろしく粗末で、淺黄色の股引もゝひきも、繼だらけの袢纒はんてんも、町の物貰ひとあまり大差のないひどいものです。
「仕事着のまゝで行つたので、あんまりひどいからと、それを脱いで新しい袢纒はんてんを引つかけて行つたやうです」
一昨日をとゝひの晩夜中近い頃、母屋の此方こつち寄りの部屋——土藏に一番近いところに寢て居る主人が、變な物音がするやうだと言つて、寢卷の上に袢纒はんてんを引つかけて
紺の匂ふ袢纒はんてんにも、きちんと揃へた股引の膝つ小僧にも、何んとなく几帳面さが見えると言つた肌合でした。
あわてゝ袢纒はんてんを引つかけて、襟も裾も合つては居ませんが、他には別に不審のかどもなかつたのです。
二枚の着物——繼だらけの仕事着と小綺麗な袢纒はんてんが、大だらひの中に入れて、水に漬けてありますが、それは今朝お光の死骸を見付けた時、それを崖の上へ抱き上げようとして
小博奕こばくちうち、ゆすりかたりくらゐはやり兼ねない男ですよ、——面白がつて見てゐるうちに、二人は水へ飛び込んでしまつたんで、クルクルと袢纒はんてんをかなぐり捨てて、水の中へ飛び込むと
「お靜は自分の袢纒はんてんを持つて、横町のお藏まで飛んで行つたよ。歸りに五匁玉一つと、一升ブラ下げて來る寸法さ。虫押への禁呪まじなひは外にあるわけはねえ。日の暮れるめえに始めようぜ、八」
後ろから袖を押へるやうに、續いて庭先に出たのは、三十を少し越したかと思ふ、美しい年増、襟の掛つた袢纒はんてんを引つかけて、まゆあと青々あを/\と、紅を含んだやうな唇が、物を言ふ毎に妙になまめきます。
袢纒はんてんを取つて參りませう」