蜻蜓とんぼ)” の例文
蜻蜓とんぼせみが化し飛ぶに必ず草木をじ、蝙蝠こうもりは地面からじかに舞い上り能わぬから推して、仙人も足掛かりなしに飛び得ないと想うたのだ。
氏はまた蜻蜓とんぼをもる。蜻蜓は相場師と同じやうに後方うしろに目が無いので、尻つ尾の方から手出しをすると、何時いつでも捕へられる。
蜻蜓とんぼが足元からついと立って向うの小石の上へとまって目玉をぐるぐるとまわしてまた先の小石へ飛ぶ。小溝に泥鰌どじょうが沈んで水が濁った。新屋敷の裏手へ廻る。
鴫つき (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それがね、やっぱりその日なんです、事というと妙なもんで、何でもない時は東京中押廻したって、蜻蜓とんぼ一疋ぶつかりこはねえんですが、幕があくと一斉いっときでさ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それに伴ひ玉蜀黍の茂つた葉の先やら、熟した其實を包む髯が絶えず動きそよいでゐて、大きな蜻蜓とんぼがそれにとまるかと見ればとまりかねて、飛んで行つたり飛んできたりしてゐる。
虫の声 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
僕は裏庭の蔵の前で、蜻蜓とんぼの尻に糸を附けて飛ばせていた。花の一ぱい咲いている百日紅さるすべりの木に、せみが来て鳴き出した。覗いて見たが、高い処なので取れそうにない。そこへ勝が来た。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
毛氈苔もうせんごけ一面に生いて、石を踏み尽したる足の快さ言わん方なし。岸に近く、浮草にすがりて、一羽の蜻蜓とんぼの尾を水面に上下するを見る。卵を生むにや。こころみに杖にて追いて見たるに、逃げむともせず。
層雲峡より大雪山へ (新字新仮名) / 大町桂月(著)
「どうだい。蜻蜓とんぼ。旨く飛べるかい。」
板ばさみ (新字旧仮名) / オイゲン・チリコフ(著)
坩堝るつぼの底に熔けた白金のような色をしてそして蜻蜓とんぼの眼のようにクルクルと廻るように見える。まぶしくなって眼を庭の草へ移すと大きな黄色の斑点がいくつも見える。
窮理日記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
英語で蜻蜓とんぼ竜蠅りょうばえ(ドラゴン・フライ)と呼び、地方によりこの虫馬をすと信じてホールス・スチンガール(馬を螫すもの)と唱う。そは虻や蠅をいに馬厩うまやに近づくを見てあやまり言うのだろう。
蜻蜓とんぼを捕えるのと同じ恰好の叉手形さでがたの網で、しかもそれよりきわめて大形のを遠くから勢いよく投げかけて、冬田に下りている鴫を飛び立つ瞬間に捕獲する方法である。
鴫突き (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
蜻蜓とんぼが傘にとまっていたのがほかのとんぼと喰い合って小溝へ落ちそうにしてぷいと別れた。溝からの太陽の反射で顔がほてるような。要太郎はやはりねらいながら田を廻っている。
鴫つき (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)