つつ)” の例文
すると突然、私のうちに誰にともつかない怒りがこみ上げてきた。しかし私はいかにもつつましそうにスウプのさじを動かしていた。……
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
第一日は室内の整理やら、入浴やら、何かとそわそわとして暮れてしまったし、明るい食堂の晩餐をもつつましく片隅に寄って済ました。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
そうして、そばにつつましやかにほほえんでいるチャンバアス夫人をかえりみて、小野さんはひどく紳士的口調の英語に取りかえた。
しゃしゃり出るお勝、清左衛門に手厳しくやられて、つつましく塗り隠した野性が弾き出されたのでしょう、今にも飛びかかりそうな気込みです。
けれどその眼も、たつた一ぺんだけ視線を合はせたことがありますが、こちらがハッとした次の瞬間には、つつましく地に伏せられてをりました。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
私たちの思索、なやみ、実践への方向は少なくとも人生の最高のものを、最もつつましい態度において志向していた。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
彼はつとめてつつましく、彼自身や、または同様の運命にあるであろう幾多の青年の、無名の画家の話をした。
自殺を買う話 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
一大事思い立ちたる事由をつぶさに述べたるのち、つつましく居ずまいを正し
赤坂城の謀略 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
誰にもわかり易い言葉でわかり易くつつましやかに語られてある。
愛の詩集:03 愛の詩集 (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
つつしみ合い労わり合っているのもいじらしかった。
渡良瀬川 (新字新仮名) / 大鹿卓(著)
すると突然、私のうちに誰にともつかない怒りがこみ上げてきた。しかし私はいかにもつつましそうにスウプのさじを動かしていた。……
楡の家 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そうして私たちのつつましく取り囲んでいるこの卓子は、恐らく殿下の侍従たちの額が恭々うやうやしく集められたことであろう。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
そんな調子で露払いをするガラッ八の後ろから平次はつつましい顔を出して、初秋の陽の明るく当るむしろぎました。
日は暑かったが、校舎の内部はまだ生々しい木の香がぷんぷんと匂って、何かつつましい旅愁をさえ味わせられた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
つつましく壇の上に立っただけで、会場の沸き返る空気を支配し、一瞬、水を打ったように静まり返ります。
僕はようやく心がしずかになってから夢殿のなかへはいり、秘仏を拝し、そこを出ると、再び板がこいの傍をとおって、いかにもつつましげに、中宮寺の観音を拝しにいった。——
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
彼は聖水を戴いて、つつましく十字を切り、そのまま教会を出ていってしまうのである。……
木の十字架 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
今八郎はそう言い乍ら、前列につつましく腰をおろした、一人の婦人を促しました。そして
つつましきミレエがに似る夕あかり種蒔人たねまきそろうて身をかがめたり
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
誰にもわかり易い言葉でわかり易くつつましやかに語られてある。
お品はつつましく口をれました。
大きなる正覚坊がつつましくねぶり目ざめてひらくあはれ
真珠抄 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ある時は遠眼鏡もてつつましくあそぶ千鳥を凝視みつめてあるも
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
何といふつつましさぞよあかあかと青木一本日に燃えてゐる
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
つつましき一時ひととき、墓場は何かを感ず
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
珠数かけ鳩のつつましさ
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)