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蘸
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ひた
ふりがな文庫
“
蘸
(
ひた
)” の例文
呼子より殿の浦の背後を上り、やがて名護屋の渡りに下る湾頭きはまるところ更に入江をなし、あひせまれる両岸の崖は、影を清き潮に
蘸
(
ひた
)
す。
松浦あがた
(新字旧仮名)
/
蒲原有明
(著)
黄海! 昨夜月を浮かべて白く、今日もさりげなく雲を
蘸
(
ひた
)
し、島影を載せ、
睡鴎
(
すいおう
)
の夢を浮かべて、
悠々
(
ゆうゆう
)
として
画
(
え
)
よりも静かなりし黄海は、今
修羅場
(
しゅらじょう
)
となりぬ。
小説 不如帰
(新字新仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
笛吹川の碧潭に影を
蘸
(
ひた
)
しているなど、捨て難い風情はありながら、何度となく通り慣れては飽きる程長い。
釜沢行
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
自然と
凹
(
くぼ
)
む二畳ばかりの岩のなかに春の水がいつともなく、たまって静かに山桜の影を
蘸
(
ひた
)
している。
草枕
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
鞠
(
まり
)
の形をしたのやら、目の届く限り残らず岩で、次第に大きく水に
蘸
(
ひた
)
ったのはただ小山のよう。
高野聖
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
▼ もっと見る
一隻は高く虚空に
翔
(
かけ
)
りて、大圈を畫し、
林樾
(
りんゑつ
)
沼澤を
下瞰
(
かかん
)
するが如くなりき。岸に近き水面には緑樹の影を倒せるありて、その中央には碧空の光を
蘸
(
ひた
)
すを見る。時に大魚の浮べるあり。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
去年も城内で犯人が殺されると、
癆症
(
ろうしょう
)
病みの人が彼の血を饅頭に
蘸
(
ひた
)
して食った。
狂人日記
(新字新仮名)
/
魯迅
(著)
その清い流れはをりをり山百合の白い花や八汐の紅い色を
蘸
(
ひた
)
した。
日光
(旧字旧仮名)
/
田山花袋
(著)
円満に動くと云う語があるとすれば、こんな場合に用いられるのだろう。落ちついて影を
蘸
(
ひた
)
していた山桜が、水と共に、延びたり縮んだり、曲がったり、くねったりする。
草枕
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
その岩の上に一人の女が、
眩
(
まば
)
ゆしと見ゆるまでに紅なる衣を着て、知らぬ世の楽器を
弾
(
ひ
)
くともなしに弾いている。
碧
(
みど
)
り積む水が肌に
沁
(
し
)
む寒き色の中に、この女の影を
倒
(
さか
)
しまに
蘸
(
ひた
)
す。
幻影の盾
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
「贈りまつれる薔薇の
香
(
か
)
に
酔
(
え
)
いて」とのみにて男は高き窓より表の
方
(
かた
)
を見やる。折からの五月である。館を
繞
(
めぐ
)
りて
緩
(
ゆる
)
く
逝
(
ゆ
)
く江に千本の柳が明かに影を
蘸
(
ひた
)
して、空に
崩
(
くず
)
るる雲の峰さえ水の底に流れ込む。
薤露行
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
蘸
部首:⾋
22画