藪睨やぶにら)” の例文
まるぽちゃの、色こそ青いけれども、片眼がちょいと藪睨やぶにらみで、おちょぼ口で、体じゅうにいろけが溢れている感じだ。
ゆうれい貸屋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
伸子は、それに答えずむっつりし、藪睨やぶにらみのような眼つきで佃の服装をじろじろ見た。彼女は、とってつけもなく
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
如何に感嘆されても称讃されても藪睨やぶにらみの感嘆や色盲的の称讃では甘受する事が出来ないで、先ず出発の門出かどでからして不満足を感ぜざるを得なかった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
馬鹿の宇八といふのは、町内の厄介者、本人は決して馬鹿ではないと威張るのですが、調子が變で、藪睨やぶにらみで、音痴おんちで、何んとなく釘が一本足りない男。
が、同時に、色の黒い、藪睨やぶにらみのお兼にくらべて、ふっくらした頬とくるくるした眼をもったお鶴の方が、より大きな魅力であったこともいなみがたい事実であった。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
風変ふうがわりではあるが、人からいくら非難されても、御前おまえは風変りだと言われても、どうしてもこうしなければいられない。藪睨やぶにらみは藪睨みで、どうしても横ばかり見ている。
模倣と独立 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一方はいつもかみの毛をくしゃくしゃにさせた、ふとっちょの女房にょうぼうであったし、もう一方はそれと好対照をしている位にせっぽちの、すこし藪睨やぶにらみらしい女房であることだ。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
藪睨やぶにらみじゃア買手がねえや!」
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
藪睨やぶにらみかられられたと自認している人間もある世の中だからこのくらいの誤謬ごびゅうは決して驚くに足らんと撫でらるるがままにすましていた。「ええ」と答えて東風子とうふうしは主人の顔色をうかがう。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)