薬箪笥くすりだんす)” の例文
一六いちろく三五さんご采粒さいつぶかの、はい、ござります。』とすみかべ押着おつゝけた、薬箪笥くすりだんすふるびたやうな抽斗ひきだしけると、ねづみふんが、ぱら/\こぼれる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
もつとも当時は俄仕込にはかじこみの薬屋をやつて居りましたから、正徳丸とか安経湯あんけいたうとか或は又胎毒散とか、——さう云ふ薬のきん看板だけは薬箪笥くすりだんすの上に並んで居りました。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
父は薬箪笥くすりだんす抽斗ひきだしから、ちぢれたような、黒ずんだ物を出して見せた。父も生の花は見たことがなかったかも知れない。私にはたまたま名ばかりでなくて物が見られても、干物しか見られなかった。
サフラン (新字新仮名) / 森鴎外(著)
薬箪笥くすりだんす小抽斗こひきだしを抜いては、机の上に紙を並べて、調合をするですが、先ずその匙加減さじかげん如何いかにもあやしい。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
左様さいで、ござりません。仁丹がうござりますやろ。」と夕間暮ゆうまぐれ薬箪笥くすりだんすに手を掛ける、とカチカチと鳴るかんとともに、額の抜上った首を振りつつおおきな眼鏡越にじろりとる。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)