苦吟くぎん)” の例文
苦吟くぎん、貧窮、流浪、ほかにお金もうけの才覚もできない無能者であるからとって、然し彼が人間通ではないと思うと当らない。
オモチャ箱 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
死人の顔から、防毒マスクを奪いとろうとした浅間しい行為を恥じるものの如く、印袢纏しるしばんてん氏は、マスクの中で、幾度も、幾度も、苦吟くぎんを繰返した。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
華文彩句を苦吟くぎんするのではなく、いわゆる満腔の忠誠と国家百年の経策を述べんとするのであった。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これに反して『七部集』の歌仙などは、句ごとの聯絡れんらくにポウズ(停止)があり、また苦吟くぎんがある。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
佐助は春琴の苦吟くぎんする声に驚き眼覚めて次の間よりけ、急ぎ燈火を点じて見れば、何者か雨戸をじ開け春琴がふしど戸に忍入しのびいりしに、早くも佐助が起き出でたるけはいを察し
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
苦吟くぎんあやめもわかぬ時
草わかば (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
すぐれたものであれば、それでよろしいので、日本の従来の考え方の如く、シカメッ面をして、苦吟くぎんして、そうしなければ傑作が生れないような考え方の方がバカげているのだ。
両宮は、夜に入るまで、なにかヒソヒソ水入らずな談合だったが、お互い久しい苦吟くぎんの後
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれどそんな苦吟くぎんは、読者にはかえって、肩のこったことだったかもわからない。
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
静止を知らない彼の精力は、久しぶりにかえって、安土に坐ると、そこにくつろぐ心地にはならないで、忽ち、次の段階に対して、いかに戦うか、必勝を期すか、思索苦吟くぎん、寝ても枕を耳に熱うしていた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、顔をしかめて、苦吟くぎんするばかりであった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みんな、口もきかずに、苦吟くぎんしている。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)