若武士わかざむらい)” の例文
宿直の室からバラバラと十人余り走り出たが、静かに冠者の後方から粛々しゅくしゅくとして進んで行く。いずれも屈強の若武士わかざむらいである。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
安政あんせい末年まつねん、一人の若武士わかざむらいが品川から高輪たかなわ海端うみばたを通る。夜はつ過ぎ、ほかに人通りは無い。しば田町たまちの方から人魂ひとだまのやうな火がちゅうまようて来る。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
何うだえ本当かえ、ふゝーそれで学問が出来るか不思議だな、しかかねて心得てもろうが、力に任せて荒い事をないように、此の間組屋敷の若武士わかざむらい源七の腕を折ったというが
本陣世古六太夫せころくだゆうの離れ座敷に、今宵の宿を定めたのは、定火消じょうびけし御役おやく酒井内蔵助さかいくらのすけ(五千石)の家臣、織部純之進おりべじゅんのしんという若武士わかざむらいで、それは酒井家の領地巡検使という役目を初めて承わり
丹那山の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
と、その時一人の若武士わかざむらい先刻さっきから群集の中にまじり、巫女の様子をうかがっていたが、思わず呟いたものである。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「しかし」とこの時一人の武士が——栃木三四郎という若武士わかざむらいであったが——ちょっと不安そうに首を傾げたが
血ぬられた懐刀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
牀几に腰かけた二人の男女、民弥たみやとそうして右近丸うこんまる、清浄な処女と凜々しい若武士わかざむらい、この対照は美しい。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
どこに一点の厭味もない。まずは武勇にして典雅なる、理想的若武士わかざむらいということが出来よう。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
とはいえいかにも江戸っらしい、洗い上げたりりしい若武士わかざむらいが、うっとりしたようなキョトンとしたような、やや道化た眼つきをして、いつまでもマジマジと見ているので
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
高貴な身分の若武士わかざむらいであろうし、その次の駕籠にいる者は、松平碩寿翁その人であろうし、その次の二挺の駕籠にいるのは、身分に見当の付かないような、小気味の悪い老人と
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、一人の若武士わかざむらい、ヨロメキヨロメキ現われた。追いすがった五人の武士、グルグルと若ざむらいを引っ包んだ。立ち止まった若武士、サーッと太刀を横へ振った。と、五人飛びしさる。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「君尾様の美しい夢物語、これは聞きずてになりませんなあ。お聞かせくだされお聞かせくだされ」こういったのは新十郎といって、ずっと前から君尾の機嫌を、取り結んでいる若武士わかざむらいである。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それに薄々感付いてはいたが、まさかと思って鬼火の姥は、警戒しようとするでもなく、例によってこの館に仕えているところの、美貌の若武士わかざむらいや稚児や茶童に、いやらしい様子で働きかけた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)