艶福えんぷく)” の例文
二千三千の賞金などは垂涎すいぜんにも価しなかった。騎手の生活は社会のどんな者より華やかで、また多すぎる艶福えんぷくに神経衰弱になるほどだった。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「へえ、不思議なもんですね。あのうらなり君が、そんな艶福えんぷくのある男とは思わなかった。人は見懸みかけによらない者だな。ちっと気を付けよう」
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「けれども艶福えんぷくの点において、われわれは樋口に遠く及ばなかった」と、上田は冷ややかに笑います、鷹見は
あの時分 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
僕はかう考へた時にひそかに僕自身の幸運を讃美さんびしないわけにはかなかつた。日本の文壇広しといへども、僕ほど艶福えんぷくに富んだ作家は或は一人ひとりもゐないかも知れない。
変遷その他 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
彼は自分の艶福えんぷくや幸運の話をして、相手を煙に巻いてやろうとした。しかしそれは無駄むだな骨折りだった。クリストフは耳を傾けないで、無遠慮に話をさえぎった。
経て近々結婚せらるゝよし侯爵は英敏閑雅今業平の称むなしからざる好男子なるは人の知所しるところなれば令嬢の艶福えんぷく多いかな侯爵の艶福もまた多いかな艶福万歳羨望せんぼういたりたえ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
とにかく今日は艶福えんぷくの多い日だッた。……………………日の立つのは早いものでう自分が死んでから一周忌も過ぎた。友達が醵金きょきんしてこしらえてくれた石塔も立派に出来た。
(新字新仮名) / 正岡子規(著)
主人は手をって下女を呼んでせんを抜かせる。主人、迷亭、独仙、寒月、東風の五君はうやうやしくコップを捧げて、三平君の艶福えんぷくを祝した。三平君はおおいに愉快な様子で
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)