色々いろん)” の例文
彼のうちは農家ではあつたが、千葉の方から養子に来た父は、元が商人出であつたから、ちよい/\色々いろんなことに手を出してゐた。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
しきり酒がすむと、新右衛門は筆を執り上げて屏風に向つた。たつぷり墨汁すみを含ませた筆先からは、色々いろんな恰好をした字が転がり出した。
「江藤さん、私は決して其様そんなことは真実ほんとにしないのよ。しかし皆なが色々いろんなことを言っていますからもしやと思ったの。怒っちゃいけないことよ、」
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
『莫迦な! 山内は那麽小い体をしてるもんだから、皆で色々いろんな事を言ふンだ。俺だつて咳はする——。』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
女学生は詩人や芸術家のなかから、髯の無い例を探り出すのが面白くなつて、てんでに自分達の記憶から色々いろんな人達の口元を思ひ浮べて見た。
……それ源ちゃんは斯様こんなだし、今も彼の裁縫しごとしながら色々いろんなことを思うと悲しくなって泣きたくなって来たから、口のうちで唱歌を歌ってまぎらしたところなの。
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「ほんの遊散場に過ぎないんだけれど、割合色々いろんな人が行つてゐるんだ。」
歯痛 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
むかし有馬兵庫頭ひやうごのかみといふ人があつた。その人は一代のうちに色々いろんな仕事もしたらしいが、その仕事よりも蟹をこはがつたので今だに名を残してゐる。
色々いろん人間にんげんがゐるのさ。」M、H微笑びせうしてゐた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
伊予の松山は日露戦争以来このかた俘虜の収容地になつてゐるので、そんな事から彼地あすこの実業家井上かなめ氏は色々いろんな方面の報道を集めて俘虜研究をつてゐる。
男にせよ、女にせよ、連添つれそひに死別れてから、四十年も生き延びてゐると、色々いろんな面白い利益ためになる事を覚えるものだ。
この男の下郎にひどく煙草のやにが好きなのがあつて、ひまさへあると、色々いろんな人から煙管きせるやにを貰ひ集めて、それをわんに盛つて覆盆子いちごでも味はふやうに食べてゐた。