みせ)” の例文
そこに露店だの小興行のみせだのがにぎやかに並んでいて、時には砂書きや大道易者が大勢そこに群集をあつめていたことを思い浮べた。
日本橋附近 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「このみせ下物かぶつ、一は漢書かんしよ、二は双柑さうかん、三は黄鳥くわうてうせい」といふ洒落た文句で、よしんばつまさかな一つ無かつたにしろ、酒はうまく飲ませたに相違ない。
と言ったが、村の男は頑としてかなかった。みせの中にいた奉公人がやかましくてたまらないので、とうとう銭を出して一つだけ買って道士にあたえた。
種梨 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
此村ここにはいささかながら物を売るみせも一二けんあれば、物持だと云われているうちも二三はあるのである。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
諸国の城下に常設のみせのできたのははなはだ新しいことである。その以前はいわゆる有無相通ずで、生産者が自ら自家用の余りを、月三度または六度の市に立って交易したのである。
家の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
街路とおり一つ距てて母屋と向きあったみせは、四けん室口まぐち硝子戸ガラスどが入り、酒味噌酢などを商うかたわらで、海苔のりの問屋もやっていた。それはもう三時近かった。肆には二三人の客があった。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)