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老夫
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らうふ
老夫筵の
端に坐し酒を
視て
笑をふくみ
続て三
盌を
喫し
舌鼓して大に
喜び、さらば
話説申さん、我
廿歳二月のはじめ
薪をとらんとて
雪車を
引て山に入りしに
老夫曰、人の心は物にふれてかはるもの也、はじめ熊に
逢し時はもはや
死地事と
覚悟をばきはめ命も
惜くなかりしが、熊に
助られてのちは
次第に命がをしくなり
○かくて夜も
明ければ、村の者どもはさら也
聞しほどの人々
此家に
群り来り、此上はとて
手に/\
木鋤を
持家内の人々も
後にしたがひてかの
老夫がいひつるなだれの処に
至りけり。