翠微すゐび)” の例文
大井おほゐ中津川なかつがはの諸驛を過ぎて、次第に木曾の翠微すゐびちかづけるは、九月もはや盡きんとして、秋風しうふう客衣かくいあまねく、虫聲路傍に喞々しよく/\たるの頃なりき。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
その詩は便宜上仮名まじりにすると、「絶頂の新秋、夜涼を生ず。鶴は松露を翻して衣裳に滴る。前峰の月は照す、一江の水。僧は翠微すゐびに在つて竹房を開く。」
文芸鑑賞講座 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
されど其道を過ぎんには、わがをさなき頃より夢に見つる馬籠まごめ驛の翠微すゐびは遂に一目をも寓するあたはざるなり。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
友の詩のかゞやけるも亦むべなりや。へやは木曾の清溪に對して、其水聲は鏘々しやう/\として枕に近く、前山後山の翠微すゐびは絶えずその搖曳せる嵐氣らんきを送りて、雲のたゞずまひまた世の常ならず。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
尾谷川の閃々きら/\と夕日にかゞやく激湍げきたんや、三ツ峯の牛のたやうに低く長くつらなつて居る翠微すゐびや、なほ少し遠く上州境の山が深紫の色になつてつらなわたつて居る有様や、ことに、高社山かうしやざんすぐれた姿が
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)