習慣しきたり)” の例文
明治八年は私が二十三で年季が明けて、その明年私の二十四の時、その頃神仏混淆こんこうであった従来からの習慣しきたりが区別されることになった。
バラ撒く習慣しきたりになっていて、当時これを妻恋坂の不知火銭といって、まあ、ちょっと大きく言えば、江戸名物のひとつになっていたんです。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それから又間もなく一知は、この村の習慣しきたりになっている物々しい婿入りの儀式を恥しがったものか、それともその式の当夜の乱暴な水祝みずいわい忌避いやがったものか
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そして系図には習慣しきたりとして流儀の奥義がしるされてあり、それを与えられた武芸者は流儀の本家家元となれる。
日置流系図 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
所が、そのお筆には、何十年この方変らない異様な習慣しきたりがあった。全く聴いただけでさえ、はや背筋が冷たくなって来るような薄気味悪さがそれにあったのだ。
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
金筋のはいった英国風の燕尾えんび服を着せて、もっと家柄の高い旧家同様の習慣しきたりに改めなければ自分の友達たちが来ても、肩身が狭くて仕方がない……というのであった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
そういう習慣しきたりでございます、そうして、この娘は、あの場で、こちらのお客様にすっかり見られてしまったんでございますから、もう嫁にやるところもございません、婿むこ
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ただ習慣しきたりでなんの気乗りもなしにして来た事をつづけて行くだけだ。何が残っている、何が? ただ苦痛を忍び受ける心と、老いと死と、そしてそのさきは……あゝ何もわからない。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
十年前の神隠しを話すのが習慣しきたりと見える。
この日、門前にひしめく群集に撤銭まきせんをするのが、司馬道場の習慣しきたりだった。当時、江都こうと評判の不知火銭しらぬいぜにというのは、これです。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
なぜなら、その太鼓というのが、朝駈けのくら以外には打つことのできぬ習慣しきたりになっていたからである。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ちょっと長い間の習慣しきたりを変えようという気にもなれなかったのであった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
供えなければなりませんので。それが納谷家に伝わる、長い間の習慣しきたり
鸚鵡蔵代首伝説 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
自分をもてあそびに来るいやな男——自分のかたきびるために自分の顔形を飾らなくてはならないとは! いや、今ではもうそのような事を考えなくって、ただ習慣しきたりで、夕方ごとに鏡に向くのだ。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
十二月と二月の八日はそれぞれに事始事納の儀とあって、前夜から家々に笊目ざるめ籠を竿のさきへ付けのきへ押し立てて、いとこ煮を食するのがそのころの習慣しきたりだった。
なんでも世間様がこう今日日のように荒っぽく気が立って来ちゃあ昔の習慣しきたりなんかだんだん振り向きもしなくなるんだって——そりゃあそうでしょうよ、あああ、いやだいやだ——。