絵端書えはがき)” の例文
旧字:繪端書
するとそこに腰囲何尺よういなんじゃくとでも形容すべきほど大きな西洋人が、椅子いすに腰をかけてしきりに絵端書えはがきの表に何かしたためていた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
……新橋の芸妓げいしゃで、人気と言えば、いつもおなじ事のようでございますが、絵端書えはがきや三面記事で評判でありました。一対の名妓が、罪障消滅ざいしょうしょうめつのためだと言います。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そんなことは手紙で知らせるよ。農民ムジイクやなんかの絵端書えはがきも送ってやろう。さ、もううちにお入り。いやにじめじめしているね。お父さんは、モスコウなんかへ行くのはやめて、皆とうちにいたいんだけどな。」
百代子の学校朋輩ほうばいに高木秋子という女のある事は前から承知していた。その人の顔も、百代子といっしょにった写真で知っていた。手蹟しゅせき絵端書えはがきで見た。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
絵端書えはがきは着いた日から毎日のように寄こした。それにいつでも遊びに来いと繰り返して書いてない事はなかった。御米の文字も一二行ずつは必ずまじっていた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大阪の岡田からは花の盛りに絵端書えはがきがまた一枚来た。前と同じようにお貞さんやおかねさんの署名があった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「じゃずいぶんご機嫌きげんよう。私たちもこの夏はことによるとどこかへ行くかも知れないのよ。ずいぶん暑そうだから。行ったらまた絵端書えはがきでも送って上げましょう」
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
下宿に帰ったら、大阪の岡田から来た一枚の絵端書えはがきが机の上に載せてあった。それは彼ら夫婦が佐野とお貞さんを誘って、楽しい半日を郊外に暮らした記念であった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
岡田はいつの間にか用意して来た三四枚の絵端書えはがきたもとの中から出して、これは叔父さん、これはおしげさん、これはおさださんと一々名宛なあてを書いて、「さあ一口ひとくちずつみんなどうぞ」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
元朝早々主人のもとへ一枚の絵端書えはがきが来た。これは彼の交友某画家からの年始状であるが、上部を赤、下部を深緑ふかみどりで塗って、その真中に一の動物が蹲踞うずくまっているところをパステルで書いてある。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
先生は時々奥さんをれて、音楽会だの芝居だのに行った。それから夫婦づれで一週間以内の旅行をした事も、私の記憶によると、二、三度以上あった。私は箱根はこねから貰った絵端書えはがきをまだ持っている。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
吾輩が主人のひざの上で眼をねむりながらかく考えていると、やがて下女が第二の絵端書えはがきを持って来た。見ると活版で舶来の猫が四五ひきずらりと行列してペンを握ったり書物を開いたり勉強をしている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夏もすでに過ぎた九月の初なので、おおかたの避暑客は早く引き上げた後だから、宿屋は比較的閑静であった。宗助は海の見える一室の中に腹這はらばいになって、安井へ送る絵端書えはがきへ二三行の文句を書いた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)