糸楯いとだて)” の例文
旧字:絲楯
いやにしらっぱくれた挨拶あいさつをする者がありましたから、関守氏が振返って見ると、三度笠に糸楯いとだての旅慣れた男が一人、小腰をかがめている。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
雨のしょぼしょぼ降る午後の二時頃菅笠すげかさをかぶり、糸楯いとだてを着て、わらじがけでとぼとぼと峠を上ると、鬱蒼うっそうとして頭の上に茂った椎の木の梢で、男と女の声がする。
怪談 (新字新仮名) / 平山蘆江(著)
藪蔭やぶかげから出て来た金蔵は、糸楯いとだてを背に負って、小さな箱をすじかいに肩へかけて、旅商人ていに作っていました。
中折なかおれの帽子をかぶって、脊広の洋服に糸楯いとだて草鞋わらじ脚半きゃはんといういでたちで頬かむりした馬子に馬の口を取らせて、塩山からほぼ、三里の大菩薩峠を目ざして行く時は前にいった通り陽春の五月
山道 (新字新仮名) / 中里介山(著)
筒袖つつそで野袴のばかまをつけたのや、籠手こて脛当すねあてに小袴や、旅人風に糸楯いとだてを負ったのや、百姓の蓑笠みのかさをつけたのや、手創てきずを布でいたのや、いずれもはげしい戦いとうえとにやつれた物凄ものすごい一団の人でしたから
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)