竪横たてよこ)” の例文
津田は竪横たてよこに走る藍色あいいろわくの上にくずれ散ったこの粉末に視覚を刺撃されて、ふと気がついて見ると、彼は煙草を持った手をそれまで動かさずにいた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
竪横たてよこ五メートルほどの大壁画が現れたがそれは毒々しい極彩色の密画で、画面には百花というか千花というかおよそありとあらゆる美しい花がべた一面に描き散らしてあった。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
雲雀とは竪横たてよこの差はあるが、これもやっぱり遠くで聴くように出来ている鳥であった。
向ひには、皮膚のあらゆる毛孔けあなから脂肪を噴き出してゐるやうな、あから顔の大男が乗つてゐる。竪横たてよこしまのある茶色の背広服のぼたんが、なんだかちぎれさうなやうな気がして、心配である。
魔睡 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
今でもすでに万遍なくり切れて、竪横たてよこの筋は明かに読まれるくらいだから、毛布と称するのはもはや僭上せんじょうの沙汰であって、毛の字ははぶいて単にットとでも申すのが適当である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分はまた籠のそばへしゃがんだ。文鳥はふくらんだ首を二三度竪横たてよこに向け直した。やがて一団ひとかたまりの白い体がぽいと留り木の上を抜け出した。と思うと奇麗きれいな足の爪が半分ほど餌壺えつぼふちからうしろへ出た。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)