空巣あきす)” の例文
空巣あきすねらいだ。そうでなくて、よろいびつなんかに、かくれるはずがない。きみたち、こいつをつかまえて、縄をかけてくれっ!
魔法人形 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
寅吉は深川に住んで、おもて向きは鋳掛いか錠前じょうまえ直しと市中を呼びあるいているが、博奕ばくちも打つ、空巣あきす狙いもやる。
半七捕物帳:40 異人の首 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ある日空巣あきすねらいがはいった。おばあさんはキョトンとした眼で見ていたが、立っていって座布団ざぶとんを出した。
ガンたちがキツネをからかっていた日、ニールスはずっとリスの空巣あきすにねころんで、ねむっていました。夕方になって目をさましますと、ひどくかなしくなってきました。
この意外な空巣あきすの占有者を見た時に、私の頭に一つの恐ろしい考えが電光のようにひらめいた。
簔虫と蜘蛛 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
もうあとの空巣あきすへは大久保長安おおくぼながやすさまの人数が、かわりにふもとまで引っ越しにきているんだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その塔の一つは、苔生こけむしたかわら屋根の頂に、あたかも額に縁無し帽子をかぶったかのように、こうのとり空巣あきすをつけていた。村の入り口に遠い十字路で、二人は泉の前を通りかかった。
「狐の嫁入見物で、どの家も空つぽになつたところへ、空巣あきす狙ひが入つたんで」
男はあれほど世話になった花子夫人の玄関へ御礼の言葉一ついい掛けるでもなく、それこそ不敵な面構つらがまえをして、さっさと歩き去りました。男は東京の山の手を荒していた空巣あきすねらいでした。
おせっかい夫人 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
空巣あきすねらいの事はさて置き、俄雨にわかあめの用心には外出のたびごとに縁側と窓の雨戸をしめて帰るとまたそれをあけなくてはならない。むかしから雨戸と女房に具合の好いものはないということわざがある。
仮寐の夢 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「無いわ。どうしたのでしょう。空巣あきすにはいられたのかしら。」
おさん (新字新仮名) / 太宰治(著)
「こりゃ、失礼しました。お留守だと思ったもんだから……むこうの山側の久慈さんの家へ、空巣あきすがはいりましてね。光明寺のほうへは出なかったから、このへんにモグリこんでいるんだろうと思うんです。お庭へはいって見ても、よろしいでしょうか」
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
おとわの空巣あきすに網を張っていると、果たして夕六ツ過ぎに、その旦那という男が三人連れでたずねて来た。
半七捕物帳:32 海坊主 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「いったい何をして捕まって来たのだ。火放ひつけか、窃盗せっとうか、空巣あきすねらいか」
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)