稜線りょうせん)” の例文
明け放した硝子扉ケースメントの向うは、ゆるい起伏のある丘で、はるか遠いその稜線りょうせんのうえに、中世紀の城のような白い家がぽつんとひとつ立っている。
正季が脱したその逃げ道は、上赤坂の三面の谷あいを除く一条の馬ノ背道の稜線りょうせんで、そこを南へのぼりつめれば、修道寺から金剛山の頂へ出る。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その窓の下のところに並べてあった事務机や椅子がひっくりかえり、その中に見覚えのない大きな箱が、稜線りょうせんななめにしてあぶない位置をとっている。
四次元漂流 (新字新仮名) / 海野十三(著)
夕映えの色もうすれた東の空に、筑波山の高いみねと、加波山の稜線りょうせんがくっきりと黒く見えた。つなは笹藪から道へあがり、人馬の列のほうへ近づいていった。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
道の左側には、巨大な羊歯しだ族の峡谷をへだてて、ぎらぎらした豊かな緑の氾濫はんらんの上に、タファ山の頂であろうか、突兀とっこつたる菫色すみれいろ稜線りょうせんが眩しいもやの中から覗いている。静かだった。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
鋒杉ほこすぎ稜線りょうせんのうえに、まっ青な空がひろがり、それを突きさすように高く伸びあがったマストの頂きで、虹色の旗がヒラヒラと風にひるがえっている。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
登ってゆく山の、稜線りょうせんに、もう少しで隠れようとしている。あたりはかなり明るいが、逆光線で、突き出ている岩や、ところどころまだらに生えている、草や灌木かんぼくの茂みが、際立って暗い。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
空は鼠色の厚い層雲におおわれ、西のほうに一とところ、低く、朱と金色に縁取られた雲の切れ目があって、それが、丘陵のうち重なる広い山なみを、その稜線りょうせんだけびたはがね色に、染めていた。