磯山いそやま)” の例文
一度なぞはおれと一しょに、磯山いそやま槖吾つわみに行ったら、ああ、わたしはどうすればいのか、ここには加茂川かもがわの流れもないと云うた。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
多数の漂着物は永い年代にわたって、誰ひとりかえりみる者もなく、空しく磯山いそやまかげち去った。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
しばらくして、大井は中途にして帰京し、小林ひととどまりしが、ようやくその尽力により、金額成就じょうじゅせしを以て、いよいよ磯山いそやまらは渡行の事に決定し、その発足前ほつそくぜんに当り、磯山のうに告ぐに
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
磯山いそやまの若葉の上には、もう夏らしい海雲かいうん簇々ぞくぞくと空に去来していると云う事、その雲の下に干してある珊瑚採取さんごさいしゅの絹糸の網が、まばゆく日に光っていると云う事
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
大阪なる安藤氏の宅に寓居ぐうきょすること数日すじつにして、しょうは八軒屋という船付ふなつきの宿屋にきょを移し、ひたすらに渡韓の日を待ちたりしに、一日あるひ磯山いそやまより葉石はいし来阪らいはんを報じきたり急ぎその旅寓に来れよとの事に
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
男は毎晩、磯山いそやまを越えて、娘の家の近くまでかよって来る。すると娘も、刻限こくげんを見計らって、そっと家をぬけ出して来る。が、娘の方は、母親の手前をかねるので、ややもすると、遅れやすい。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かもめの卵をさがしに行った男が、ある夜岸伝いに帰って来ると、だ残っている雪の明りで、磯山いそやまの陰に貉が一匹唄を歌いながら、のそのそうろついているのをのあたりに見たと云うのである。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
俊寛様は魚を下げた御手に、間近い磯山いそやまを御指しになりました。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)