矢飛白やがすり)” の例文
お浜は箪笥たんす抽斗ひきだしをあけて、あれよこれよと探しはじめましたが、そのうちにふと抽斗の底から矢飛白やがすりあわせを引張り出しました。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼女が裸に矢飛白やがすりの金泥を塗って、ラパン・ア・ジルの酒場で踊り狂ったのは新吉の逢った二回目の巴里祭キャトールズ・ジュイエの夜であった。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ぼうとなる大願発起痴話熱燗あつかんに骨も肉もただれたる俊雄は相手待つ間歌川の二階からふと瞰下みおろした隣の桟橋さんばしに歳十八ばかりのほっそりとしたるが矢飛白やがすりの袖夕風に吹きなびかすを
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
この女がなぜ矢飛白やがすりという綽名をつけられたかと云うと、すぐれて容貌がよく、こんな稼業にはめずらしい上品な女なのですが、玉に疵というのは全くこのことでしょう。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
小造りの体に纏っている衣裳は、紫の矢飛白やがすりの振袖で、帯は立矢の字に結ばれていた。
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
澤は黙ってうなずきながら、目の前に倒れている屋根の下に、紫矢飛白やがすり銘仙めいせんの着物に赤い唐縮緬とうちりめんの帯をした乙子を抱いて、白地に秋草模様のゆかたを着た養子が死んでいるのだと思って暗然とした。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)