睡入ねい)” の例文
それだけの狼狽ろうばいをさせるにしても快い事だと思っていた。葉子は宿直部屋べやに行って、しだらなく睡入ねいった当番の看護婦を呼び起こして人力車じんりきしゃを頼ました。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
その音におびえたのであらうか、今までは音無しく睡入ねいつて居たらしい彼の二疋の犬は、その時床の下からほの白く出て来るや否や、又いつものあの夕方の遠吠えを初めた……。
情慾の曇が取れて心の鏡が明かになり、睡入ねいッていた智慧ちえにわかに眼を覚まして決然として断案を下し出す。眼に見えぬところ、幽妙の処で、文三は——全くとは云わず——稍々やや変生うまれかわッた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
乳母 ぢゃうさま! これさ、ぢゃうさま! ヂュリエットさま! ぐっすりと睡入ねいってぢゃな、ぢゃう? はて、仔羊こひつじさんえ! はて、ひいさまえ! ま、こゝなお寢坊ねばうさんえ! はて、可憐いとしぼさん! これの
見苦しい非人ひにん小屋が、何軒となく立ち並んで居りますが、今はもうここに多い白癩びゃくらい乞食こつじきたちも、私などが思いもつかない、怪しげな夢をむすびながら、ぐっすり睡入ねいってるのでございましょう。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
もう朝も遅くなつて、唱歌の授業でも始つて居るのかと、あたりを見ると、妻は未だ睡入ねいつて居る。戸の隙間からも朝の光は洩れて居ない。何の物音も無い……そのオルガンの音の外には。
彼は自分自身で、それを、未だ睡入ねいらずに考へて居るやうに感じ、もう眠つて居て夢のなかで考へて居るやうにも思つた。さうしてそれが果してどちらであつたやら、後になつて見ると更に解らない。