まなざし)” の例文
女たちは、小伝馬船の上から、マンが、煙草をのむのに、妙な点火器具を使用していたのを、好奇のまなざしで、遠望していたものらしい。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
大牟田公平の事を考え出すと、彼女は昼間の町中でも、思わず背を振向いて、何かにけられているようなまなざしをした。
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
燃えるようなまなざしで、馬道裏うまみちうらの、路地の角にる柳の下にったのは、せいの高い歌麿と、小男の亀吉だった。亀吉は麻の葉の手拭で、頬冠ほおかぶりをしていた。
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
哀愁をたたえられた沈思のまなざしと薄小麦色に蒼白さを交えた深みのある肌膚きめあでやかさとは、到底自分らの筆をもっては表わすこともできないと書いていました
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「まあそんなになりますかいなあ」とゆめみるまなざしをあげて「ようまあ、よつてくださんした」
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
だが唯一つ、写真で分らなかつたのはその眼の美しさであつた。大きく、冴えて、ぱつちりとして、研き抜かれたやうな光りがあつて、真に明眸とはあんなまなざしを云ふのであらう。
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
星のまなざし月の眉
天地有情 (旧字旧仮名) / 土井晩翠(著)
と、マンは、夢みるような、妖しげなまなざしになって、ひとりごとのように、「いっぺん逢うてみたいなあ。逢うて、お礼がいいたいわ」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
どうかした加減で、前髪がちらちらと私の眼の前を掠めたり、凉しいまなざしが閃めいたりする。女の頬からは涙がさめざめと、止めどなく流れ落ちて、冷めたい鉄棒を伝はつて、私のくちびるの中へ入つて行く。
Dream Tales (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
金五郎を、憎悪のまなざしで、睨みつけていたが、急に、身体をひるがえし、提灯をかきわけて、自分の伝馬船の最後尾に、撤退した。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
二人のまなざしには何かしら殺気のようなものがあったが、友田は手拭でぶるぶると顔を洗い、話は別ですが、今度、参事会で
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)