眇眼すがめ)” の例文
矢部は彼が部屋にはいって来るのを見ると、よけい顔色をけわしくした。そしてとうとうたまりかねたようにその眇眼すがめで父をにらむようにしながら
親子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
あいつはかつ子が軽微の眇眼すがめなのを誤解して自分に秋波を送つてゐるのだと有頂天になつた莫迦ばか野郎だが、いつの間にか彼女は岸田のきも云はなくなつた。
現代詩 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
そのために登勢はかえって屈託くったくがなくなったようで、生れつきの眇眼すがめもいつかなおってみると、思いつめたように見えていた表情もしぜん消えてえくぼの深さが目だち
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
両側は崩れ放題の亀甲石垣きっこういしがき、さきは湊橋みなとばしでその下が法界橋ほうかいばし上流かみへ上ってよろいの渡し、藤吉は眇眼すがめを凝らしてこの方角を眺めていたが、ふと小網町の河岸縁に真黒な荷足にたりが二
跛足ちんば眇眼すがめでちんちくりんの山本勘助かんすけの例を引いて、体の器官に不備な所があるのは却って威容を増すものだなどゝ云う風に上手に吹っ込む者があると、だん/\当人も慰められて
ふたつ並べたその鼻のあなに、眇眼すがめに、まだ歯も生えぬ
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
想像していたのとはまるで違って、四十恰好かっこうの肥った眇眼すがめの男だった。はきはきと物慣れてはいるが、浮薄でもなく、わかるところは気持ちよくわかるたちらしかった。
親子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
巻いてゐた帯を解いてかすりの前掛だけになり——帯は彼の入場料になつて、彼は活動写真に感激した余り、二階の上りつぱなの壁に、墨で以て、眇眼すがめの尾上松之助の似顔絵を大きく書いたり——
釜ヶ崎 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
眇眼すがめの眼もヒステリックに釣り上がって、唇には血がにじんでいた。
勧善懲悪 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
その眼はやや眇眼すがめであった。斜視がかっていた。だから、じっとこちらを見ているようで、ふとあらぬ方向を凝視している感じであった。こんな眼が現実の底の底まで見透す眼であろうと、私は思った。
四月馬鹿 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
もっともお千鶴は美人は美人にしろ、一等には少し無理かと思えるほどの眇眼すがめで、本当はおれの思いちがいだったかも知れないが、とにかくお前よりはおれの方が好かれていたことだけは、たしかだ。
勧善懲悪 (新字新仮名) / 織田作之助(著)